赤い靴 ――ごめんなさい。
ここ最近はずっとそんなことを言ってばかりだな、と思う。誰への言葉なんだろう、とは思うけれど、きっと誰にでもあって誰にでもない。花堂さんに宛てているのかも、正直分からない。わがままに何回も付き合わせてしまっているな、という負い目はあるけれど。
――でも、やり方はこれしか分からない。
スコープの向こう、少し遠くに見える白くて早いもの。あの赤は好きじゃない。赤は好きだけど、あの目は嫌い。新調したワンピースの裾がひらひらと風に揺れているのが自分にも分かる。
ここには沢山の思い出がある。外から見たら狂っていても、幸せだったわたし達。だから、これ以上壊れないでほしくて。無くならないでほしくて。訳も分からないままに何かをしたくて。
逃げるなんてことも頭にない。――勿論、誰かが居たらその人達を優先して。
全部壊れているなら、全部が正しい。だからわたしも、まだ足に馴染んでない、つやつや光る赤いエナメルのストラップシューズで、真っ直ぐに立って。
わたしに猟師は必要だったかもしれないけど、木こりはいらないの。
「――いい子にしてないと、オオカミがくるんだよ」
わたしはオオカミになれないけれど、皮を被るくらいはできるから。
スコープ越しにこちらを見たような気がする赤い目に、一発銃弾を撃ち込んだ。