Are you going to ***? 瓦礫が崩れる轟音と共に、水が形を留めずに落ちていく。
「――花牟礼さ、ん?」
引き攣れるような感覚が消えない喉を動かして、名前を呼ぶ。呼びかけへの応えはない。
突然細い何かが絡みつくような、冷たく嫌な感覚に足を動かす。
「はなむれ、さん」
一面の瓦礫。声を上げる。呼びかける。
深海のように暗く、閉じた夜に明かりはない。
ただ影ばかりが落ちていて、音すら帳の向こうにあって。姿は見えない。声も聞こえない。どこに居るのかも、分からない。なのに、剣は刃毀れもせずに輝きを残していた。
こん、と乾いた咳が、やけに息苦しい喉から落ちていく。
応えはない。
「はなむれさん」
応えはない。
ガラス片が刺さったように痛む脚で歩き回りながら、闇雲に声を出す。
咳の混ざる声がどれほど聞き苦しくなっても、か細くなっても、ひたすらに。乾いた咳の音が、重くなっていくのも無視して。
「花牟礼さん」
ようやく、届いた。
「……ああ、あなたですか」
瓦礫の下に、彼はいた。
「――助けてください」
――分かっている。ここで助けても、この人はきっともう私を見ない。そもそも、助かるかなんて言われたら。
それでも、手を伸ばさずにはいられない。「もう一度」がないことを分かっていても、夢を見ずにはいられない。
「うん」
だから、その声に応えを返す。
瓦礫を抑えている彼の手の爪から、血が吹き出していた。痛そうだな、なんて熱に浮かされたような思考で他人事みたいに思うのは――もう、自分の方が限界だからかもしれない。今こうなっているのが、不思議なくらい。呼吸はどんどん苦しく速くなって、体もうまく動かせなくなっていく。今、瓦礫を退かそうとする手に、どれだけ力は入っているのだろう。
そうこう足掻いているうち、何かに罅が入ったような、嫌な音がしたのと同時。ああ、もう無理だ。と、咳き込んだ時に思わず口元にやった手に付いた薄ピンクのものに、ぼんやりとした回らない頭でそう悟る。――もう、どうにもならないのだと。
崩れる音が、耳に届く。
この人を助けたかったのに。それか、せめて。
「――ねえ、花牟礼さん。手を、握ってもいいですか」
応えがないまま、瓦礫を抑えている血塗れの手の上に、黒く濡れた自分の手を重ねる。だって、独りはあんなにも寂しくて苦しいから。
――でも本当は、あなたといきたかった。
吐息のように「好きでした」とその唇が呟いた直後、轟音を立てて瓦礫の山は津波のように崩れ落ちた。