真実の愛を前にどうこうできると思うなよ神代一人は怒っていた。人生でこんなにも怒りを感じたことはないほどに。
「一人ォ、もうちょい抑えてやれって」
新人ちゃんが怯えてんじゃん、と付き合いの長い氷室は呆れたようにコーヒーを啜る。
「あの人に近付こうとするマスコミやお前達を執拗に追いかけるパパラッチが居なくなればすぐにでも」
言いながらコーヒーの缶がグシャリと握り潰され、それを見た哀れな新人がまた震えていた。
「まぁ、お前の怒りたい気持ちも分かるし、オレは別にいいけどよ」
氷室と一人の付き合いは子役時代まで遡る。休みがちな学校より現場で会う子役同士が仲良くなるのは必然だった。芸能一家に生まれ、赤子の頃から役者として生きてきた一人と幼いながらも自らの意思で飛び込んできた氷室は妙に馬が合い、今日まで友情を育んできた。もう親友と言っても差し支えないだろう。
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