──ここは、とある国の、とある街角。古くて大きな木に守られるようにして、ひっそりと佇む、こじんまりとした小さなカフェがありました。
街の人間たちには内緒ですが、そこに暮らしているのは、幾千年の時を今なお生きる、四人の美しいエルフたちです。
これは、そんな隠れ家のようなカフェを営む彼らの、なんてことないけれど、ちょっぴり不思議な日常のお話。
たとえば、バレンタインデー。
「遠いよその国では、今日は女性から男性にチョコレートを贈る日なんだそうですよ、父上」
「このあたりの人間たちの文化とは、やることがまるで逆のようですね」
不意に掛けられた声に、視線を落としていた書物から顔を上げたエルロンドは、そっくりの顔が一対、カウンター越しに自分を覗き込んでいるのを目にしました。
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