シュウが目を醒ましたとき、あたりは濃い霧に包まれていた。
足元から冷気が立ちのぼる。石造りのベンチは分厚いツイードの外套越しに腰掛けてもなお沁み入るように冷たかった。
意識を取り戻した後も、シュウはすぐに立ち上がろうとはしなかった。息を殺し、神経を研ぎ澄ませながら周囲の気配をうかがう。濃霧の立ち込める視界は見通しが悪く、景色さえ判然としない。ベンチの傍らに植えられた枝垂れ柳らしい木が植えられているのが、辛うじてわかる程度だ。
「つれないな。俺を置いて一人で行ってしまうなんて」
不意に頭上から声がかかる。振り返ると、いつの間にかベンチの後ろに佇んでいたヴォックスが、冷たく整った面差しに淡い笑みを湛えながらシュウを見下ろしていた。相変わらずどこにいるのかはわからないまでも、見知った顔にシュウは安堵の息をつく。
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