現世に召喚されるファストくんの話…出来た。出来てしまった。
悪魔を召喚出来てしまった。ネットに書かれていた事を鵜吞みにしてやってみただけなのに。
こっくりさんやひとりかくれんぼといったオカルト的な儀式の一つとして紹介されていた悪魔召喚の儀式。そのほとんどは実行しても何も起こらないようなデマカセの召喚儀式でしかなかったが、まさかアクセス数の少ないサイトに書かれていた方法が本当の召喚方法だったとは。
まぁ、実際はかなり省略してしまったが。
赤石を使えと書いていたが青石しか用意できなかったし、悪魔を生贄に使うとか言われても無理なので使わなかった。
それでも召喚出来てしまった。背中に蜘蛛の足を生やしたガスマスクの青年の悪魔を。
「…何ここ。狭いんだけど。」
その悪魔が最初に発したのは、私の自室に対しての文句だった。
「あ、悪魔…ですよね?」
「見ればわかるじゃん。バカなの?」
なんだこの悪魔。クソガキみたいな事言いやがって。
悪魔は周囲を見渡し私が召喚に使った物品を眺める。
「へー。俺ってこれで召喚されるんだ。案外単純。…そうでもないか。」
と彼は用意した青石を拾い上げる。
「これどこで拾ってきたの?」
「え?あ、アンティークショップで…」
「ふーん。人間の世界でも売ってんだ、これ。」
「本当は赤石が良いって書いてたんですけど青石しかなくて…」
「赤石?おねーさん、Ⅻの事呼び出したかったの?アイツ上級悪魔だから悪魔を生贄にしないと出てこないよ。」
「はい…なので使わずに…」
「…なんかそれで俺が呼び出せるのムカつく。」
「今日はたまたま成功したんです!他の方法とか試しても出来なかったし…ほ、ほらこのサイトに!」
と、サイトページを見せる
「そのサイト閉鎖してるけど?」
「えっ!?」
サイトページを確認すると404の文字。閉鎖されている。
「お、おかしいな…さっきまでは見れたのに…」
「ま、たまたまでも召喚出来たならすごいんじゃない?俺もそれなりに強い悪魔だし。で?なんで俺の事呼んだの。呼びたかったから呼んだんでしょ?」
「え、いやその…なんとなく興味で…」
「は?何それ。ふざけてんの?」
「まさか本当に召喚できるとは思わなかったんです!」
「じゃあ何?特に用もないけど呼んだの?何それウザすぎ。」
ギャルみたいな事言ってる。中身まで若いな。
「俺契約して願い叶えないと地獄に帰れないんだよ?せっかく映画見てたのに邪魔しないでくんない?」
悪魔も映画とか見るんだ。結構普通に生活してるな。
「何でもいいから願い事して契約して。なんか無いの?願い事。」
「え?えと…お金がたくさん欲しいです」
「働いて稼げば?」
「っぐ…」
悪魔のくせに正論言いやがって…
「なんか無いの?アイツウザいから殺したーいとか。」
「こ、殺すのはちょっと…」
「じゃあホントに何もないじゃん。どうすんの。」
「え~っと……お帰りください…」
「だから帰れないんだってば」
参った。まさか呼び出せるなんて思ってなかったから本当に何にも考えていない。
強いて言うならお金が欲しいくらいだけど、働けという正論で返されてしまった。
悪魔を呼ぶ人はどんな願い事をするんだろうか。やっぱり誰かを殺してほしいとかなんだろうか。
「ねぇ。本当に何もないの?」
悪魔が私の顔を覗き込んでくる。近っ、というかよく見たらすごいイケメンだなこの悪魔。
「は、はい…今は何も…」
「あっそ。じゃあ思いついたら言って。俺人間の世界初めて来たし、せっかくなら満喫しちゃお。」
「えっ初めて?」
「そうだよ。俺召喚されるの初めてなの。だからなんか、期待外れ。」
あのサイト、自分で召喚できるのか試してないのか…いや、そもそも私が勝手に省略しただけだった。
「ねぇ。どっか美味しいスイーツ食べれるとこ知らない?俺ケーキ食べたいんだよね。」
「え?えーと…都心に出たら結構ありますけど…」
「そ。ありがと。願い事決まったら呼んで。名前呼んでくれたら暇なとき来るよ。」
「わ、わかりました…いや待って名前知らない」
「俺ファストって言うの。じゃあまたあとでね。」
そう言って自室を出ようとする
「待ってくださいその格好で行くんですか?」
「流石に蜘蛛足と尻尾は仕舞うよ。邪魔だし。」
やっぱり邪魔なんだ、その背中の蜘蛛の足
「えとその…ガスマスクとかも外した方が…目立ちますし…」
「ふーんそっか。人間って地味だもんね。」
悪魔が派手なだけだと思いますけど。
「服も地味なのにした方がいい?」
「あ、はい。」
男でへそ出しはかなり目立つと思うしね
「じゃあ服貸して。って言ってもサイズ無いか。おねーさん俺より小さいもんね。ていうか女だし。男物の服無いの?彼氏のとか」
「私彼氏いなくて…」
「そうなんだ。かわいそ。」
なんかところどころムカつくなこの悪魔!失礼だし!別に彼氏いなくたっていいじゃん!そりゃあ出来るなら欲しいけどさ!!
「じゃあ買って来てよ。服。」
挙句にパシリにするというこの態度。なんかふてぶてしくない??悪魔ってこんな感じなの??いや漫画に出てくる悪魔も大概ふてぶてしいか。じゃあ合ってるのか。
彼は私の部屋に転がっていたファッション雑誌を手に取ると読み始める。本当に無遠慮だな。
「へぇ~。…こん中だったらこれがいいかな。こういうの買ってきて。」
と、雑誌のページを見せる。少しゆったりとしたニットベストの紹介ページだ。こういう系が好きなんだ。まぁ今の服もかなりカジュアルだしな。
「買ってきて。早く。今すぐ行かないと殺すよ。」
すごい雑に脅してきた。
「そんなに急かさなくたって…」
と、突然プスッと蜘蛛足が手に刺さる。
「この手、動けなくしちゃうよ。」
力が加わりどんどん深く突き刺そうとしてくる
「いたたたたたたた!!!!わかりました!!わかりましたから!!!今すぐ行きますから!!!」
「うん。行ってきて。」
スッと蜘蛛足が抜ける。手からは少し血が出てしまっている。
「いったぁ……止血止血…」
「早く行ってよ」
「止血だけさせてくれませんか??」
「チッ。貸して。」
むっとした顔で私の手を掴む。怪我させたのそっちなのに何故舌打ちをされなければならないのか。
ペロッ
彼は流れ出る血を舐めとり傷口に吸い付く
「え”えっ!?!?」
「うっさ。黙って。」
まさにお姫様の如く手の甲にキスをされている。行動だけ見ればロマンチックだが、状況は全くロマンチックじゃない。生意気なクソガキ悪魔に傷口を舐められているだけだ。
「はい、治った。早く行ってきて。」
「は?えっ?」
手の甲を見ると何もなかったように傷が消えている。傷口に唾を付けるなんて古典的な方法がこんなに即効性あるのか?
私が唖然として手を見ていると
「何変な顔して。悪魔なんだから魔法で治せるに決まってんじゃん。」
決まってませんけど?
でも悪魔なら魔法くらい使えるか、とすぐに納得した。
私は急かされるままに、私の部屋でテレビを見始めた悪魔を尻目に外へ出かけた。
頼まれた服を買って家に戻ると、お菓子を勝手に食べながらテレビを見てくつろいでいた。本当に何なんだコイツ。
「おかえり。買ってきた?」
「ハイハイ買ってきましたよ、これで良かったんですよね?」
私は少し不服気味に買ってきた服を手渡した。
「そっちが勝手に呼んだくせに何その態度。ムカつく。」
とぶつくさ言いながら目の前で着替え始めた。
「えっちょっ!ヤダ、向こう行って着替えて!」
と目を伏せる私に
「いちいち大袈裟。うるさい。おねーさんが向こう行けば?」
もう辛抱たまらん。流石に言ってやりたい。
「あ、あの!そりゃあ何の用も無しに呼んだのは悪いとは思いますが、いくら何でも横暴じゃないですか!?人をパシリにするわ物は勝手に食べるわ…人としてどうなんですか!」
「俺悪魔だけど」
「悪魔でもです!!呼び出しやがってとか言いますが!私だって貴方を呼びたかった訳じゃないんですけど!」
と言い放つと、悪魔はプイと顔を背け
「ま、そーだよね。おねーさんが呼びたがってたのⅫの方だし。みんな兄さんの方がいいよね」
そんなことを呟いて、着替え終わったのか立ち上がると
「じゃあ俺ケーキ食べに行くから。お願い事決まったら呼んで。」
と部屋を出ていった。
待ってお金は?と引き留めようとしたが、どうせ集られそうなので黙っておこう…
あとがき 一旦ここで区切ります。気が向いたら続き書くかも