「エルシーさん」
「🌱~、どうしたのぉ?」
柔らかで優しい声。ゆるく首をもたげながら目を細める様は、どこか気だるげだけれど色っぽさを感じる。
エルシー・ゾラ
彼女は正に高嶺の花という言葉が相応しかった。
「この前頂いた報告書なんですが、新しいメンバーのレイン・ガーランドの居住地に間違いがあったので確認をお願いします」
「あちゃ~、ほんとぉ? 出向かせちゃったね、ごめん」
私は国の総務省で働いている。
外部のギルドとのやり取りがメインで、仕事を通じてエルシーさんとは知り合った。仕事上、ギルドマスターと相対することは少なくはなくて、表面上はみんなペコペコ愛想良くしてくれるけれどうっすらと滲み出る嫌悪感を感じ取るのは簡単だった。そりゃそうだ。お上から派遣されてくる人間なんて好かれる訳がない。やれ視察だやれ報告の不備だと指摘してくるのなんてとにかく厄介だろう。
でも彼女は違った。荒くれ者が多い冒険者に怯える私を時に励まし、時に厳しく叱りつけてくれる。大幅に遅刻をしても書類を無くしても「あははぁ、しょうがないねぇ」と笑い、まるで妹でもあやすように頭を撫でてくれるのだ。
柳のような人だと思う。
強くしなやかで、折れることなく全てを受け入れてくれる。この凛とした美しさが私は好きだ。
「今ちょっとニーナが外しててさぁ、帰ってくるまでお茶でもしてようか」
「ありがとうございます、いただきます」
本来ならば仕事中なので断るべきなのだろう、でも残業とエルシーさんと二人きりの時間を天秤にかけアッサリと私は了承する。奥に通されて椅子に座るとエルシーさんは慣れた手つきで紅茶を淹れている。
「インスタントでごめんね~」
「いえ! お構いなく! エルシーさんが淹れてくれるから美味しいです!」
「あはは、なにそれ。ハイ……確かミルク少しとハチミツたっぷり、だっけ?」
「そう、です」
つい、言い淀んでしまった。エルシーさんが私の好みの飲み方を覚えてくれていたことに動揺して。
「んふふ~、甘いの好きなんでまだまだ子供だねぇ」
「んな……! 成人してますから! 私!」
「ほらぁ、そうやってすぐむくれるところとか」
テーブルに肘をつき、こちらを見つめながらクツクツと喉を鳴らして笑う姿があんまりにも綺麗で私はつい、見惚れてしまう。
「ん……どしたの?」
目があう。
手が伸びてくる。
私の横髪を耳にかけて、白くしなやかな指の背が頬をなぞった。
「な、んでもない……です……!」
尚も動かない私を不審に思ったのか顔を覗き込まれそうになり、椅子ごと勢いよく後退る。
(さ、触られちゃった……! エルシーさんに……!)
私は熱を持った顔を見られたくなくて俯く。耳にかけていた髪がハラハラと落ちてくる。まるでカーテンのように物理的に閉ざされたこの空間に少しばかりドギマギしていた心が落ち着く。
「なんでもないのぉ? 顔、真っ赤だったけど、具合悪い?」
「ほ、ほんとに、なんでもないです……ちょっと……イヤ……いいです……」
自分でも何を言ってるのか分からなくて、この妙な雰囲気をなんとか吹き飛ばそうと頭をフル回転させる。
「ねぇ、こっち向いて、見せてよ、顔」
私が引いたぶんだけ椅子をズズズ、と動かして近づいて来たエルシーさんがぴっとりと隣につく。そしていつもよりも低い声で囁きかけられる声に私は逆らえない。
「いい子」
おずおずと顔を上げると、ニンマリと目を細めて笑うエルシーさんと視線が絡む。