一人で過ごす大晦日なんて特にすることがあるわけもなく。テレビもパソコンもない我が家では定番の歌番組もお笑いも見ることは叶わず、ただぼーっとしながらてっぺんに届きそうな時計と忙しなく行き交う人々を眺めていた。さっき飲んだチューハイのせいでほんのり熱を持つ頬が夜風に吹かれてきもちいい。
コンコンと、玄関の方から聞こえてきた、気がした。気がしたというのは、こんな非常識な時間に訪ねてくる人間がいるわけがないからだ。時計を見るとあと一分と少しで年が明けそうだった。別に年明けの瞬間を今か今かと待ち望んでいる訳ではないが、流石に来客対応しながらの年越しは勘弁したい。気のせいだな、無視しよう。そう決めてブランケットを膝にかけ直したら、気のせいじゃないぞと言わんばかりに再びノックの音が部屋の中に響く。
すっかり二人で過ごすもんだと思ってたのにコージくんはいつメンで飲みにいっちゃって、ただでさえちょっとイライラしてて、考えないようにしてしていたのに。ささやかで静かな年末さえ過ごせそうになくて嫌な気分になる。仕方がないと腰を上げて、ニットを羽織って玄関に赴く。
「あのぅ………ぁえ?」
非常識な来客に少し文句でも言ってやろうかと苛立ちを隠さないまま玄関を開けるが、それが叶うことはなかった。
「コージくん?」
「おう」
だって、そこにはコージくんが立っていたんだから。白い息を吐いて、寒そうにマフラーに顎を埋めながら片手を上げるコージくんの顔は赤くて、眠そうに瞼が落ちかけてて、明らかに酔っている。
「忘年会は?」
「抜けてきた……」
気になったことを聞くとふにゃふにゃと呟きながら私に寄りかかって背中に手をまわしてくる。外が冷えてるせいか、酔ってるせいか、いつもよりあったかいコージくんの体温が心地よい。
「とりあえず、あがろうよ?」
「うん……」
そんなこと言いながらもコージくんは全然動く気配はなくて、どうしよう。玄関は開けっ放しのせいで冷えた空気が吹雪いてくるし、たまに通りがかる人が不思議そうに玄関の中を覗き込んでくる。
「お前の顔……見たくなった……」
首にコージくんが埋まりながら呟く。やわらかい髪の毛が触れてくすぐったくて、それ以上にくすぐったい言葉に、心臓と顔と、とにかくいろんなところが熱くなる。『私も』そう言い返そうとした瞬間、遠くから年越しを告げる鐘の音が響いてきた。完全に寝入ってしまったコージくんもそのまま私に寄りかかってきて、ずるずると二人して玄関に座り込んでしまう。
「今年もよろしくね、コージくん」