「コージくんッッッ!!」
我ながら大層ヒステリックな声が出たと思う。ガシャン、と持っていたコップを地面に叩きつけるとガラス製のそれは粉々に砕け散って歯ブラシも散り散りに転がる。
「なんだよ、うるせぇなあ」
気怠げな足取りで洗面所に入ってきたコージくんは私の取り乱した様子を見ても何も変わらない。
「こっ、この! 歯ブラシ! 誰のよ! 私のじゃない!!」
「………しらねぇよ」
「知らない筈ないでしょ!? 誰の家だと思ってんの!?」
床に転がる、覚えのないライムグリーンの歯ブラシを指差しながら叫ぶ。きまりが悪そうに目線を下げながら答えるのは明らかに何かを誤魔化そうとしているように見える。
「また女の子でしょ!! もうこういうの! 絶対しないって約束したじゃん!」
わっ、と顔を覆いながら半狂乱になって泣き叫ぶ。
「なんでもねえよぉ……女のだって決め付けるなって、そうだ、エンディが泊まりに来ただけだよ」
「そうやって……誤魔化さないでよぉ……」
抱きしめられる。優しい手付きとは裏腹な面倒そうな声色となあなあの言い訳が、私の心を逆撫でするって、どうして分からないんだろう。
「………なあ、泣くなって、こっち見ろよ」
後頭部を撫でながら顔を上げられる。
コージくんは、ずるい。喧嘩になって、私を宥めるのが面倒になると魔法を使う。そうされると私の心は罪悪感と負い目でいっぱいになる。私だけが悪い気がして、死にたくなって、コージくんに許されたくて、堪らなくなるのだ。
私は咄嗟に、視線から逃れるように、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「°ぁ………?」
恐る恐る顔を上げる。コージくんは俯いて動かない。
「………コージ、くん?」
何が起こったのかわからなくて、縮こまったままでいるとコージくんはしゃがんで再び私のことを強く抱きしめてくる。
「……! だから、そうやって誤魔化さないでって「悪い……」
振り解こうとして、身体が硬直した。か細い、震えた、それでもしっかりと聞こえた謝罪の言葉。
「俺……お前がいないと駄目なのに……どうしても寂しくってよぉ、ごめん、ごめんな」
肩に埋まるコージくんは啜り泣きながら、許しを乞う言葉を連ねる。何が、と考えてすぐに私は思い至る。魔法。催眠。洗面所。鏡。
(反射……したんだ……コージくんの魔法が……)
「俺が悪かった……なぁ……頼む……許してくれよ……」
小さくなって弱々しい声で縋りながら私の身体に顔を埋めてくる背中に、おずおずと、手を回してみる。コージくんが、私に追い縋ってる。あの、コージくんが。こんな姿見たことない。ごくりと、唾を飲み込む音がイヤに大きく聞こえた気がした。コージくんは、いつも、こんな気分だったんだ。