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    カエデ

    @yoyoyon777

    妄言
    夢と腐とごちゃごちゃある
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    カエデ

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    【夢】コージくんの女がワダチーに再会復讐する話 暴力・微グロ・ガキが死ぬ描写在

     いつまで経っても目覚めない男にバケツの中身をぶちまける。
    「っ……! ぶはっ!」
     冷えた水を顔面から受け止め、咳き込みながら漸く、男――ワダチーは覚醒した。すかさず飛び掛かってこようとするが、後ろ手に嵌められた手錠の鎖は壁に繋がっておりそれは叶わない。
    「おはよう」
    「…………、お前、コージのっ」
     この場に似つかわしくいない挨拶かもしれないが、無視されるのは少し傷つく。私の顔を見て即座にそんなことを思い出せるのは、流石かもしれない。
    「アンタは、今はトーマだっけ? ワダチーは死んで二階級特進、新しい戸籍、新しい名前、新しい人生……凄いねぇ、そんな映画みたいなこと、ほんとに出来るんだ」
     持ちうる限りの情報を開示し、自分の優位性を示すと同時に情報での取引は無駄だということを分からせる。「おかげで探すのに苦労した」と、恨み言を最後に付け足しておく。
    「…………」
    「結婚したんだってね? いいな――私の夢もね、お嫁さんだったの」
    「あいつらは関係ないっ! 俺の過去も仕事も何も知らない!」
     黙って私の言葉に耳を傾けていたが、家族の話題に触れた途端に吠え出すので反射的に頭を踏み付け黙らせる。
    「仕事で殉じる覚悟があるアンタを殺したって、なんの意味もないでしよ」
     私は部屋の隅へと歩いていく。ワダチーとは対角線上、暗がりに放置された布の塊。彼は地面を這いながら、目だけで私を追うことしかできない。
    「ま、さか……」
     布をめくる。栗毛の美しい女が、長い睫毛が瞼に影を落とし安らかな顔で眠っていた。
    「アリアッ!! お前っ! お前、ふざけるな! クズが!」
    「うるさいなぁ、何もしてない、生きてるってば」
     騒ぎすぎたせいか、女がゆっくりと瞼を開ける。ぼんやりと周囲を見渡して──その視線が夫を見つけ、微かに笑みが浮かんだ。
    「あな――」
     その瞬間、ナイフを、剥き出しの白い首に突き立てる。
     最後の声なんて、聞かせるもんか。
     私は、コージくんの『最後の言葉』を、思い出せないのに。
    「っ……ごぷっ……げ、」
    「アリア!! アリアぁ!」
     喉からこぼれる音、血を溺れるように吐き出しながら、女はしばらくもがいて、そして──死んだ。
     悲痛な声に、心がささくれだつ。ふざけんな。アンタは、国の為とかいう意味わかんない理由でコージくんを……半分たちを破滅に追いやった残酷な男だろ? 血も涙もない潜入捜査官、裏切り者、そうでしょ?
     なに、人間ぶってるんだよ。
     手を濡らす血の暖かさと粘着きが、そのままこころに絡みつくようだった。
     
    「ワダチー」
    「っ……!!」
     低く落とした声が、石の壁に反響する。ワダチーの視線が、私の腕に抱かれた赤ん坊に釘付けになる。
    「なぁ……その子、だけは……」
     声が震えてる。情けなく縋るみたいな目を無視して、赤ん坊をそっと床に寝かせる。
    「頼むっ! 頼む頼む頼む!! 許してくれっ!! なんでもするっ!」
    「んぁ~! ぁ! ぁ~~っ!!」
     必死に叫び、鎖をギチギチと引き、体を折ってこちらに身を乗り出そうとするが届くはずもない。金属の擦れる不快な音と叫び声にまるで火が付いたように赤ん坊が泣き出した。
     部屋の隅に落ちていたレンガを持ち上げる。
    「やめてくれ!! 頼む! 俺にしろ!!」
    「あぁ~~っ! ~!!」
     怒号が、泣き声が脳を揺らす。煩い。どいつもこいつも。黙れ。コージくんの声が聞きたい。あのまろやかな、少しハスキーな声でもう一度私を呼んで。
     やり遂げなきゃ。
     やり遂げなきゃ、終われない。
     こいつのせいでコージくんは死んだ。
     報いを。
    「やめろ!!」
     レンガを、振り下ろす。
     息が止まりそうになった。何かが崩れた音。心の中か、空気か、それとも。
    「はっ……はぁ……! はぁっ……!」
     赤ん坊の頭蓋骨というのは、思ったよりも硬かった。一度では事足りず七か八度目の殴打でようやく頭は潰れ、動かなくなる。とてもじゃないが、レンガをどかして下を改める気にはならない。
     絶えず込み上げてくる吐き気を飲み込みながら死体に上着を被せる。
    「あ、ぁあぁぁ…………」
    「黙れ!」
    「こ、ころして、くれ……おれも……」
    「黙れってば!!」
     声も顔も、全部が嫌だった。絶望を絵に描いたような表情で這いずるワダチーの頭を、私は渾身の力で蹴り上げた。
    「お前がっ!! お前のせいで!!」
     息が震える。涙で視界がにじむ。
    「アタシじゃない!! アタシがやったんじゃない!!」
     喉が焼けそうだった。でも止まらなかった。止めたくなかった。
    「お前が殺したんだっ!! お前が……!!」
     自分の声が、自分の耳を刺すようだった。壁にぶつけたはずの怒りが、自分の中で跳ね返って、喉の奥を殴る。
     そのまま、何度も、めちゃくちゃに蹴り飛ばし続ける。掌に残る嫌な感触を忘れるように。怒号で耳の中にこびりつく赤ん坊の断末魔をかき消すように。
    「たのむ……おれも……」
    「っ……ふーっ! ふぅ……! ふぅ……!」
     ワダチーはそれでも黙らなかった。瞼が切れたのか赤く濁った白眼で私を爛爛と見つめながら、亡霊のように同じ言葉を繰り返す。
     先に体力の限界がきた私は鉄製の重い扉を開き、まるで逃げるように廊下に転がり出た。体重をかけて再び扉を閉じずるずると座りこむ。背中とお尻から伝わってくる石畳の冷たさが、そのまま心に染み込んでくるようだった。
     血生臭い地獄のような部屋と隔たりを得て、漸くまともな思考を取り戻す。
    「ちがう、わたし……ほんとは、こんなこと……」
     祈るように両手を合わせる。
     復讐を遂げれば、何かが変わると思った。
     ワダチーを私と同じ地獄に引き摺り込んで、それで――それで?
     何も変わっちゃいない。煮えたぎるような憤怒は、喉を詰まらせる悲壮は、まだ私の中で生き、渦巻いている。
    「わたし……ただ、コージくんに……」
    『会いたい』と、音にする筈だった言葉は掠れた呼吸としてしか排出されず、代わりに涙がぽろぽろと零れ落ちた。
     
    「っぎ……!」
     突然の衝撃。顔を膝に埋め、思考の行き止まりに突き当り、ただ泣くだけの私の後頭部を掴み投げ飛ばしたのは他でもない、ワダチーだった。思い切り壁に叩き付けられ、全身が痛い。呻きながら這いつくばるが到底逃げられる訳もなくマウントポジションを取られる私は目を細めながら本来ここに居る筈のない男を見上げる。
    (なんっ、なんで? 手錠は?)
     ワダチーの手首と拳は血に濡れていた。力尽くで抜き取ったとでもいうのだろうか。
     
     その形相は、とてもじゃないが、人間のそれではなかった。
     血走った目、剥き出しの歯茎、乾いた唇の隙間からは、浅く荒い息が漏れている。怒りと怨念に心を焼かれた者の末路は、こうも醜くなるのかと。
    「返せっ……返せ……」
     掠れた声が、喉の奥から絞り出されている。それは、言葉というよりも呪いに近かった。
    (嗚呼――私も、こんな顔をしてたのかな)
     復讐にすべてを注ぎ込み、善も悪も忘れ、胸を埋めるのはただ一つ、「憎しみ」。覚えのある感情を思い出しながら、どこか他人事のように考える。
     太い指が首に掛けられた。せめて安らかな顔で、そう思いながら目を瞑る。地獄でも来世でもどこでも良い、コージくんに再会するなら、一番可愛い私で会いたいもんね。――もう遅いか。
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