墓地の夢商人 秋の薄曇りの午後、大学の裏手に広がる小道を今年一回生の北村涼が歩いていた。
空は灰色に染まり、風は冷たく、木々のざわめきが耳に触れる。彼は一人だった。いや、未だ大学に友人がいない彼にとって、そうでない日などなかった。
「別に帰ってもいいんだけどな……」
自嘲気味に呟きながら、遠回りの道に入っていった。彼はよく遠回りをする。そのことについて、彼自身は特に理由のない行為だと思い込んでいるが、実際は自身を呼び止めてくれる誰かの存在に期待していたということは言うまでもない。
ただ、自分がどこに向かっているのかは誰にも知られたくなかった。
いつもの遠回りの道を涼が歩いていると、突き当たりの塀奥から、卒塔婆のようなものが見えていることに気がついた。
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