毒慣らしするぞー的な何か■
「あ、」
そう言ったのは小平太だった。彼は一文字だけ喉奥から捻り出し、バシン!と手で口元を勢い良く覆った。他は何も言わない。ただ、耐えるようにジッ……とその格好のまま、イチミリも動かない。そんな小平太の異変にいち早く気が付いたのは保健委員所属の伊作であった。どこからどう見ても吐きそうである小平太の姿を認めて、彼は「小平太!」と鋭い声を発し、隣に座っていた留三郎を押しやって身を乗り出す。だが、小平太は何も喋らなかった。否、喋れなかったのである。
穏やかな時間が流れていたというのに、一気に緊迫した空気に変わってしまった。伊作は押しやった際に床に転がった留三郎にも目もくれず、小平太の傍に駆け寄ってすぐさま湯呑みを手繰り寄せる。何か体に良くない物を体内に入れたのなら、吐き出さねばならない。ダクダクと汗を流す小平太の眼前に湯呑みを掲げ、伊作は「出来るね」と拒否させない声で告げる。
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