かくしごと・上(微🟥🟩) 壁だの床だの天井だのを震わす駆動音が、少しずつ意識の範疇に忍び入ってくる。これを苦にするものは、少なくともこの艦船の中には存在していないだろう。当直や作戦行動開始時刻の如何によっては不規則となる場合もあるが、大凡規則的に繰り返される勤務形態によって鍛え上げられたいわゆる体内時計や、進路の変化や艦船自体の傾きによって変化する駆動音やその振動を感じ取る五感を駆使した、眠るべき時に眠り起きるべき時に起きる、言わば大胆かつ繊細な睡眠はよく染みつけられた軍人らの仕草のひとつだった。
用心のためとベッドサイドに仕掛けておいたアラームは、あと2分としないうちに鳴るはずだった。シーツをぞろりと引きずりながら手を伸ばし、目視で確認することもなくそれを解除する。
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