ブクロ勝利ルートのノバス 熱気を煽るセコンドの声が聞き慣れた名をコールした。
同時にステージ上が明るく照らされ、客席中のライトが赤く点灯して揺れる。沸き上がる歓声は一人残らず自分たちを讃え、祝福しているかのように聞こえた。
「兄貴!」「いち兄!」
晴れやかな表情で駆け寄ってくる弟たちを「やったな!」と抱き寄せると、あどけない子どものような照れ笑いがこぼれた。かつて痛いほどに渇望していた“幸せな兄弟”に世界一当て嵌るのは、まさに今の自分たちに違いなかった。
鳴り止まない歓声に大きく腕を振って応えていると、不意に「一郎!」と名を呼ぶ声があった。
このどよめきを切り裂くように明瞭に聞こえたくせに、その声の主を捉えるには僅かにタイムラグがあった。視界が白むほどの照明に目が慣れつつある自分には、その光の外側は随分と暗く感じられた。
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