その顔には、見覚えがあった。
ここは町にある交番で、そこに勤める自分はいつも通りに勤務していた。この数年間特に大きな事件などもなく、今日もただいつも通りに。
ふと、こちらへ向かってくる人影に気付く。それはどこかで見たことのある顔で。そうだ、確か夢ノ咲出身のアイドルだったはず。名前は、
「守沢千秋?」
ほんの数ヶ月前まで、よくバラエティ番組に出演していた気がする。最近ではすっかり見かけなくなったが。
ハツラツとした印象の守沢だったが、彼がこちらに近づいてくるにつれ、その姿が自分の記憶する守沢とは180度異なって見えることに気付く。この茹るような暑い日に彼の顔は蒼白としており、目は虚ろで足元はどこか覚束無い。そこまでわかって、ようやくただ事ではないと感じた。
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