その顔には、見覚えがあった。
ここは町にある交番で、そこに勤める自分はいつも通りに勤務していた。この数年間特に大きな事件などもなく、今日もただいつも通りに。
ふと、こちらへ向かってくる人影に気付く。それはどこかで見たことのある顔で。そうだ、確か夢ノ咲出身のアイドルだったはず。名前は、
「守沢千秋?」
ほんの数ヶ月前まで、よくバラエティ番組に出演していた気がする。最近ではすっかり見かけなくなったが。
ハツラツとした印象の守沢だったが、彼がこちらに近づいてくるにつれ、その姿が自分の記憶する守沢とは180度異なって見えることに気付く。この茹るような暑い日に彼の顔は蒼白としており、目は虚ろで足元はどこか覚束無い。そこまでわかって、ようやくただ事ではないと感じた。
思わず駆け寄り、声をかける。
「き、君、大丈夫かい!? 何か、あったのか!?」
「……俺は、」
守沢は徐に口を開いた。よく見ると、彼の首には手で絞められたような跡が赤黒く、はっきりと浮かんでいる。
守沢は息を一つ吸い込むと、静かに、でも確かな口調で告げた。
「俺は、人を殺しました」