学生旧知毎年、夏になると思い出すことがある。
まだ私にも獄にも何も悪いことが起きていなくて、二人とも世界の過酷さを理解していなかった無邪気な少年の頃の記憶だ。
中学も夏休みに入って、酷く蒸し暑い快晴が続いたある日のことだった。
地元からは少し離れたミニシアターで愛読していた小説を原作とした映画が上映されると聞いた私は、猛暑の中で出かけるのを渋った獄を「きっと面白いから」と説き伏せて一緒に見に行く約束を取り付けた。
あまり多くはない小遣いをやりくりしていた中学生にとって、電車賃も映画代も決して安くはなかったから二人だけでそんなに遠出をしたのは初めてだったと思う。
「暑い暑い」と言い合いながら汗が滲んだ手に千円以上もする切符を握りしめて、最初こそ少しソワソワしながら窓の外を眺めたりしたけれど、乗ってしまえば後はどうということもなくて私は持ってきた小説を、獄は英語の参考書を開いてそれぞれ読みふけっていた。
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