どこまで行ったって平凡なまま通りかかった部屋から流れ出す細やかで美しい、繊細な旋律。
これは、そう。
ベートーヴェン作曲、「エリーゼのために」だ。
かつて私自身も練習していた曲の為、つい立ち止まってほんの数秒、聞き込んでしまった。
そしてまた、あの鍵盤に触れた時の感覚を覚えている指が疼き、脳が拒む。
昨日も、今日も、明日も、いつまでも。
ずっと、こんな事を繰り返している。
私はピアノを弾く事が好きだった。
友人からは褒められ、教室の先生からは評価され、次第に私は「ピアノ関係の仕事に就きたい」と思い始めていた。
最初は両親も応援してくれていた。
しかし、徐々に徐々にみんなが否定するようになり、私も挫折した。
皆はこう言った
「才能がある人にしか無理なんだよ」
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