放課後の教室。他の生徒はとっくに下校しており、誰も居ない。外で部活動を行っている部員らの声だけが遠くの校庭から聞こえてくる。
そんな教室でひとり。一郎は、気を抜くと上がってしまいそうな口角を引き締めながら、彼を待っていた。
「おう。ちゃんと残ってたな、イイコ」
「…うっす」
一郎のクラス担任でもあり、数学の担当教員でもある碧棺左馬刻。よく逃げずに来たと揶揄うように笑いながら、一郎の頭をくしゃりと撫でて、正面に座った。
「んじゃ、補習やってこうな。逃げんなよ」
「うす」
「俺様の担当クラスで赤点とか、お前だけだぜ。センセイ悲しいなあ」
「…センセーの教え方が悪ぃんじゃねっすか」
生意気なことを言うのはこの口かと軽く頬を摘まれ、すぐに離される。ちっとも痛くなかったくせに、痛ぇ!と大袈裟に声を上げながら摘まれていたそこを擦ったのは、赤くなる感覚を誤魔化すためだった。
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