いつかのはなし後ろ姿だけ見ると何も変わらない。グレーの面積が増えた頭ぐらいか。
相変わらずがっしりとした大きな背中が、その体に隠れて見えない訪問客の可笑しそうな笑い声に釣られて微かに揺れた。
やっと玄関の扉が閉まり、振り返った男の腕にはその風貌に似合わない可愛らしい布巾のかかったバスケットが抱えられていて、妙に愛嬌のあるその姿に思わず吹き出すと、困ったように眉を下げた微笑と目が合った。
「宿題を見てやった礼だと」
今度は何をしてやったんだ?と聞くと、まんざら困っているようでもない様子でポンとその可愛いお礼の品を手渡された。布巾の下は少しばかり形の崩れたカントリークッキーだ。
「最初はあんなに怖がられていたのにな」お、チョコチップ。
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