とあるドローンの記録わたくし、家事代行サービス専用のドローンでございます。
守秘義務がございますので、他言したことはございませんが、かの人気ロックバンド、ロアロミンのボーカル、霧島ロア様のお宅を担当させていただいているのが、わたくしの密かな誇りであります。まだ半年ではございますが、お気にそぐわなければ担当変更を申し出されているかと思いますので、まずまずご期待に添えているのではないかと自負させていただいております。
先日、ロアロミンは結成10周年を迎えられ、人気が衰えるどころかうなぎ上りで、特に霧島ロア様はバンド活動だけでなく、モデルや俳優業にも精を出され、日々忙しくしてらっしゃいます。そんな霧島様のご活躍を目にするたび、わたくしにできるのはほんの些細なことではございますが、僅かばかりの支えができているのではないかと、喜びを感じる次第にございます。
さて、そんなことを考えながらお掃除を進めておりましたら、玄関の鍵が開く音が致しました。一人暮らしの霧島様のお宅の鍵を開けられるのは、霧島様ご本人か、バンドメンバーで懇意になさっている平月太様だけです。マネージャーの方ですら、有事の際の為、鍵を開けること自体はできるものの、普段は霧島様の許可なく入ることは許されていないと以前伺いましたので、やはり平様は幼馴染みということもあり、霧島様の心許せる方なのでしょう。
「いつもご苦労さま」
「お帰りなさいませ」
入ってこられたのは霧島様でした。お忙しい方ですので、お目にかかる機会は多くはないのですが、たまにお会いすると、こうして必ず労いの言葉をかけていただきます。また、お目にかかった機会は少ないとはいえ、いつお会いしても世間一般のイメージする霧島ロアそのもので、"ロア様"のイメージが崩れたことは一度もございません。
「御中元がいくつか届いておりましたので、お名前とお品物をリストにしておきました。また、冷蔵保存が必要な物は冷蔵庫に入れてありますが、他の物はいかが致しましょう? 日持ちのする物だけでも食料保管棚に入れておきましょうか?」
「いや、オレ様は食べないし、事務所に持っていってマネージャーやスタッフに分けてもらうから、そのまま置いといて」
「かしこまりました」
霧島様は体型維持の為、食事制限をなさっているので、脂質や糖質が多いこのような贈り物を避けられているのは頷けます。しかし……
「あの、差し出がましいことではごさいますが、よくいらっしゃる平様は、お召し上がりになられるのでは?」
熨斗の巻かれた箱を開けるたびに、平様が召し上がる笑顔を思い浮かべてしまっていたわたくしは、ついそう申し上げてしまった。
すると、霧島様は、
「そりゃ、ゲッタちゃんにあげれば食べるだろうけど……ここに来たときくらい、オレ様の作った物や、オレ様が選んだ物以外、食べてほしくないんだよね」
そう、仰られて、微笑んだ。
それが、なぜかいつもの霧島様らしくないように見えて、慌てて謝罪を申し上げたのだが、
「いくら見た目で売ってないとはいえ、ロックバンドのドラマーらしくならない程度であってほしいって、オレ様が勝手に思ってるだけ」
そう仰られたときには、いつもの霧島様で、先程の微笑みは、わたくしの勘違いだったのかもしれません。
どうであれ、お客様にご意見申し上げる等、家事代行サービス専用ドローンとして出過ぎた行いでございました。高性能AIがアダになることもあるのですね。
戒めとして、本日のことは記録データに残しておきましょう。また、わたくしが故障して新たなドローンに変わるとき、このデータを引き継げるように。
二度と同じ過ちを犯さないことも、プロフェッショナルとして当然のことでございますから。