月齢―――――――――――――――――――
体調悪くて行けない ごめん
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メッセージツールのロアロミングループに、そんな素っ気ないメッセージが入ったのは、ロミン以外のメンバーがちょうど揃った頃だった。
そのありふれた文面にロアが違和感を持ったのは、ほとんど直感だった。
誰だって体調を崩すことはある。もちろんロミンも例外ではなく、まずまず健康で、時折り人並みに調子を崩した。
だから、これといって騒ぎ立てる理由もないのだが……なぜかロアは、すぐに駆けつけてやらなければならないような気がして、月太とウシロウを解散させると、ロミンの家に向かった。
まぁ、違和感なんてなくても、ロアはロミンのところに行っただろう。
ロアもロミンも両親が共働きであまり家におらず、何かあればまずお互いで助け合うようにと言い聞かされてきたし、そうでなくても可愛いいとこだ。同い年なのに妹のようで、できる限り大切にしてあげたい。
お互いの家には自由に入れるようになっている。勝手知ったるいとこの家。ロアは声もかけずに玄関扉を開けた。
中は薄暗く、しんと静まりかえっていた。
廊下を進み、ロミンの部屋の前で立ち止まる。さすがにそこではノックをして声をかけた。
「ロミン。オレ様」
数秒待っても返答はない。
「ロミン? 開けるよ」
そっとドアを開く。
まず、目に飛び込んだのは、ベッドの上のこんもりとした、まる。
丸くなった掛け布団。おそらく、中にはロミンがいる。
比較的寝相のいいいとこが、こんな顔も出さずに布団にくるまっているのは、やっぱ何か、いつもと違う。
それから、ドアを開けた時に気付いた、微かな匂い。
そして、いつの日かの保健の授業が、頭の中を駆けていった。
「ロミン」
できる限りの優しい声音で、ロアはいとこの名前を呼んだ。
驚かせないようにそっとベッドに腰掛けて、まるを撫でる。
「ご飯、食べた? もしおなかが痛いなら、何か食べてからお薬飲もうか。何か食べたいものはある?」
そう、優しく声をかけていたら、急にまるが弾けて、中から鮮やかなピンクが飛びだした。
「分かったふうなことを言わないで!」
叫びながらロミンは、小さな拳でロアの胸を叩いたが、それはあまりにも弱々しくて、ロアはちっとも痛くなかった。
「男のロアには何にも分かんないくせに! こんな、こんなのがこれから毎月……! べとべとして気持ち悪い、おなか痛い、だるい……気持ち悪い、きもちわるい……!!」
ロミンはそのままずるずると、ロアに縋るように泣き出してしまった。
ロアは、その背中を撫でながら、
「そうだね、何にも分かんないよ。オレ様、オトコノコだからね」
ごめんね、と呟く。
その痛みを共有してあげられなくてごめんね。
分かってあげられたら、君は少しは楽になれるだろうに。
可愛い可愛いいとこの為に何だってしてあげたいのに、ロアがロミンにしてあげられるのはほんの小さなことだけだ。
ロアの言葉を聞いて、ロミンの嗚咽が止まった。
顔を上げて、ロアをにらむ。
よくロミンは、ファンのお姫様たちやクラスメイトなんかに、クールだとか、ミステリアスだとか言われているらしいけれど、ロアにしてみれば、ロミンほど表情がくるくる変わって、心情の分かりやすい子はいない。
今だって目まぐるしくその表情は変わって、ロミンが考えていることを教えてくれる。
ロアの聞き分けの良さにさらに苛立って、でもロアを見てすんでのところで思いなおす。ロアは自分を心配してくれているのに、優しく受け止めてくれているのに。でもすぐに苛立ちがおさまるわけでもなく、でも気付いてしまったからにはもうぶつけることもできない。
そんな感情に挟まれているであろうロミンは、目を伏せて、小さな声で、絞り出すように、ごめん……と呟いた。
ロアはそんなロミンの頭を撫で、頬をつたう涙を指で優しくぬぐう。
時々この可愛いいとこを、何の不安もない、何も怖いもののない優しい空間に閉じ込めておきたくなるけれど、今のロアにそんな力はなく、そしてこの子もそれを望みはしないだろう。
「さぁ、何が食べたい? オレ様、久しぶりに腕を振るっちゃおうかな」
ロアはせいいっぱい優しく微笑みかけた。