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    iceheat_ofa

    @iceheat_ofa

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    iceheat_ofa

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    新刊の始まり部分…
    「Dearest」の続きで、吸血鬼に転生したショートと人間に転生させられたイズクのお話。

    今回はちょっと…出さないかもしれないけど…
    最後までがんばってみます。
    出なかったらごめんなさい…

    Reincanationもりのおくのおしろには、かいぶつがすんでるんだよ。


    だからぜったい、ちかづいちゃだめなんだ。


    みつかったら…たべられちゃうんだよ。







    「かいぶつ?」
    眉を寄せ大きな瞳をぱちぱちと瞬かせると、少年は不安そうに見上げてきた。
    大きな町から離れたこの山奥の村ではずっとそう言い伝えられ、子供たちが安易に森の中へ入らないように守ってきた。
    「そう。見つかったらみんなと遊べなくなっちゃうから、森の奥には行っちゃだめだよ」
     優しく頭を撫で、唇の前に人差し指を立てる。
     遠い昔、森へ入った村人が帰らず、そのまま消息を絶ってしまうことが続いた。
     それは大人子供関係なく、森の奥へと入った者とは二度と会うことができなかった。いなくなった者を探すことは次の被害を防ぐために村長が禁止とし、森の奥へも余程のことがない限り入ることを禁止としたのだった。
     その森に人とは異なる魔物が住んでいるのか、それとも熊や狼などの獰猛な動物が人を襲うのか、その姿を見たものもいないため、村人がいなくなる原因などはわかっていない。また森の奥に城があるのかさえ、知らないのだ。全てが古くからの言い伝えで、今村に住んでいる者で実際に森に入った者もいない。
     この言い伝えがあるからこそ、今村人は安全に暮らせているのだと思うと、この先もこの話は語り継いでいかなくてはいけない。
     村を守るために…。

         *****

     イズクはそんな村の教会で暮らしている。神父ではないが、町から村に続く道で倒れているところをこの教会の神父・ソラヒコが介抱し、面倒を見ているのだ。
     村人はイズクを村へ入れることに難色を示したが、ソラヒコと村の医師・トシノリの説得により条件をつけて仲間へと迎え入れた。
     条件をつけたことには、その時のイズクの状態が記憶喪失だったことにある。意識を取り戻した時、イズクはそれまでの記憶を失くしており、自分が何者なのか、どこから来たのか…何も覚えていなかった。唯一、名前は【イズク】だということだった。
    「森の奥には怪物が住んでいる」
     そんな言い伝えを信じて守っているような村だ。
     村の外に倒れていた者を安易に受け入れるなどできなかった。その上、記憶喪失とあっては、信用できる要素がなかったのだ。だから条件として記憶が戻った時、森の奥のことに詳しかったり何か犯罪に関わっているようなことがあればその時点で村からは出て行かせるというものだった。
     イズクの体調が戻った時、ソラヒコとトシノリは村人の前でイズクにその話をし、その条件をイズクが受け入れたことで村に住むようになった。
     最初は余所者という反応が大きく、ソラヒコやトシノリ以外と話をすることはなかったが、イズクの柔らかい物腰やよく働くことから徐々に受け入れられ、今は誰もイズクのことを煙たがる者はいなかった。子供たちもイズクと遊ぶことも多く、絵本を読んだり親が仕事から帰ってくるまで面倒を見ることも増えていた。
     自分の正体や今までどこでどう暮らしていたのかなど、イズクも気にならないわけではなかったが、こうやって自分を受け入れてくれた村に感謝もしており、このまま記憶が戻らなくてもいいのかもしれないと思っていた。
    「何か思い出したかい?」
     村人からもらった野菜を診療所に持ってきたイズクに、トシノリが尋ねた。確かに記憶がない方がいいということもある。けれど全てが忘れていいことでもないはずだからと、無理に思い出さなくても、ふと何かのきっかけで思い出すことがあるならそこから過去のことを紐解いていいと伝えていた。
    「まだ…何も。すみません…」
     自分のことを心配して声を掛けてくれるのに、全く何も思い出せずイズクはいつも申し訳なく思っていた。思い出したくないわけではないが、思い出さない方がいいのかもしれないと心のどこかで思ってしまう。記憶のないまま、新しい自分として生きていく方がいいような気がしているのだ。
    「いや、謝ることじゃないよ。君が悪いとかではないんだから…ゆっくり思い出せばいいさ」
     俯いてしまったイズクの頭を撫でると、トシノリはお茶を淹れるために立ち上がった。イズクが何者であっても、あのまま放り出すことなど、人として医師としてできることではなかった。
     それともう一つ…気がかりなことがあった。
     治療のためにイズクの服を脱がせたところ、左肩から胸にかけて大きな切傷があった。それと倒れていたことが関係しているかどうかは分からなかったが、痛々しい傷跡にトシノリは眉根を寄せたのだった。
     記憶が戻れば、その傷のことも思い出すだろう。それが原因だとしたら、きっとイズクにとっては辛いことになるかもしれない。そう思うと軽々しく早く思い出せなど言えるはずがなかった。
    「思い出しても、思い出さなくても、ここにいればいい。村の人たちだって今では君を受け入れてるよ」
     イズクが意識を取り戻してから一ヶ月だが、彼は最近村へ来たなど思えないほどに皆と仲良くしている。この先がどうなったとしても、イズクは村から追い出されるようなことはないだろうと確信していた。けれどイズクは記憶を取り戻し、その過去の自身を許せなければ黙って出ていってしまうだろう。
    「誰か大切な人の元に帰るなら止めないけど、私たちに悪いと思って村を出るということなら、私は全力で止めるよ」
     トシノリの言葉にイズクはいつも感謝している。その優しさに甘えていることも自覚している。朝起きたら思い出しているかもしれない…そう思いながら一ヶ月、過ごしてきた。けれど全く記憶は戻らず、教会と診療所の仕事を中心に手伝い村に留まっている。
    「ありがとうございます」
     イズクは礼を言うとティーカップに口をつけた。
     大切な人…そんな風に想う人がいたのなら、なぜ記憶を失うようなことになったのか。何かその相手との間に越えられない何かがあったのか。
    「私の手伝いをしてくれて、とても助かってるんだ。だからずっといてくれていいんだよ」
     そう言ってトシノリはにっこりと笑い、ティーポットから紅茶を注いだ。イズクも微笑むと二杯目の紅茶をそっと喉に流し込んだ。

         *****

     夜の祈りのため祭壇の前に跪き、胸の上で手を組み合わせる。
    「どうか皆が幸せに暮らせますように…」
     十字架に貼り付けられたキリストの像を見上げながら、村人の無事を祈る。天使がキリストに向かい手を差し伸べる様子を描いたステンドグラスは、夜だというのに綺麗に輝いていた。
     その時、背後の扉がガタンと大きな音を立てて開いた。驚いて振り返ったがそこには誰の姿もなく、風に煽られた雪がふわりと舞っていた。
    「風?」
     イズクは扉を閉めようとゆっくりと立ち上がり信徒席の間を歩いていたが、扉に近付くにつれ何かがいる気配があり一瞬歩みを止めた。その気配は信徒席の一番後ろの席から感じ、イズクは息を潜めながら一番後ろの席を覗き込むと、そこには腕から血を流した一人の青年が倒れていた。イズクは急いで扉を閉め、青年の元に駆け寄った。
    「だ、大丈夫ですか?血が…」
     手を差し伸べようとした時、廊下を複数の足音と床を獣の唸り声と爪が引っ掻く音が聞こえてきた。侵入者や不審者、森に住む獰猛な獣が村に入った場合、訓練した猟犬と防衛団を中心とした村人が追い詰めて捕らえるのだ。
    「こっちか!」
     猟犬が血の匂いを嗅ぎつけたのか、こちらに向かい激しく吠える声を頼りに村人が近づいてくる。
    『この人が…侵入者…?』
     着ている服は普通の村人とは違い、いい素材のものだとイズクにもわかった。確かにこの村で見かけたことはないが、それでも今は敵意がないと感じる。それに腕以外にも怪我をしているのか、倒れている床に血溜まりができこのままでは命に関わってしまう。
     礼拝堂の前で足音が止まると、カチャとセーフティを外す音が廊下に響いた。今まさにその扉が開かれようとした時、扉が開き中からイズクが顔を出した。
    「イズク!」
     銃を構えていた村人は、イズクが出てきたことに驚き慌てて銃を下ろした。
    「何かあったの?フォルスたちまで…」
     そう言ってイズクは血の匂いで昂っていた、フォルスとサジェス、二頭の猟犬の頭を撫でた。二頭はイズクに撫でられ、剥き出しにしていた敵意を徐々に治めクゥーンと甘えた声を上げた。
    「誰か来なかったか?」
     防衛団の一員でイズクと同い年のシュータは、辺りを警戒しながら尋ねた。
    「ここには誰も来ないよ。僕だけ…」
     できるだけ平静を装って答え、イズクはサジェスの首元をゆっくりと撫でた。シュータは二頭の様子からも、既に侵入者はここにはいないと思い少し警戒を解いた。
    「そうか…イズク、もう教会も閉めた方がいい。戸締りをして誰が来ても開けるな」
     一緒に行動している仲間に次を探そうと合図する。
    「何があったの?」
     イズクは教会から出て行こうとするシュータに声を掛け、この慌ただしい状況を詳しく聞こうとした。
    「見たことのない男がいた。声を掛けたら逃げ出したから追いかけてきたけど…人間とは違う気がして」
     フォルスとサジェスが追いつけないほどの足の速さと、銃弾を交わす身の軽さ、銃で仕留めたと思ったのにそれでもここまで逃げてきたことに人間ではないのでと思ったのだ。
    「とにかく気を付けろよ…」
     イズクの頭をそっと撫でると、シュータはまた夜の森へと侵入者を捕らえるために入っていった。
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