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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    チェズモク800字。眠れない夜もある。

    #チェズモク
    chesmok
    ##BOND

    ■インソムニア


     同じベッドの中、モクマはチェズレイの隣で寝返りをうつ。
    「眠れないんですか?」
    「なんか寝付きが悪くてな。……寝酒でもするか」
     起き上がろうとしたモクマの肩を押し止める。薄暗がりの中でプラチナブロンドが揺らめいた。
    「寝酒は体によくありません。それだったら私が催眠をかけて差し上げます」
    「えっ」
     モクマは少しぎょっとする。これまで見てきたチェズレイの催眠といえば、空恐ろしいものばかりだったのだから。するとそれを見透かしたようにアメジストの瞳が瞬いて眉尻が下がる。今にも涙がこぼれ落ちてきそうだ。――モクマはこの顔にたいそう弱かった。
    「モクマさん……私があなたに害のある催眠をかけるとでも?」
    「い、いやそんなこと思っちゃおらんけど……」
     言われてみれば確かにそうだ。この男が自分にそんなことをするはずがない。
     しなやかな手によって再びベッドに背を預け、モクマは隣に横たわるチェズレイと目を合わせた。
    「目を閉じて、ゆっくり呼吸してください。体の力を抜いて」
     穏やかな声に、言われるとおりにモクマは従う。
    「想像してください。あなたは果てのない広い草原にいます。そこへ羊が一匹……」
    「……ちょ、ちょっとチェズレイさんや」
     ストップの声が上がる。モクマがおかしそうに喉を鳴らして笑っているのを見て、チェズレイも小さく笑う。
    「あんまりにも子供だましじゃない?」
    「これは昔から伝わる軽い催眠ですよ。羊の数を数えるのに集中することによって、脳が他の余計なことを考えないようにさせるんです」
     そう言われてみれば納得してしまう。じゃあ続きを、と言うのでモクマは再び目を閉じる。
    「羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹……」
     耳に染み込んでくるような静かな声に、モクマはいつしか体から余計な力が抜けて意識が遠のいていくような感覚を覚えていた。最後に聞こえたのは、「おやすみなさい」というチェズレイの優しくどこか甘い声。
     カーテンの少し開いた窓から、細い三日月だけがそれを見ていた。
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