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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    フォロワーさんがモさんの語る怖い話を書いていたので自分も便乗して書いてみた。
    全然怖くないけどホラーに全く耐性がない人は一応気をつけてください。

    #バディミッションBOND
    buddyMissionBond
    ##BOND

    ■こわいはなし?


     深夜。ルークとモクマがオフィス・ナデシコのキッチンで、夜食に冷凍されていたピザトーストを焼いて食べている。飲み物はコーラだ。行儀悪くも焼けたそばからオーブントースターの前で立ったまま食べているが、それを咎める者はいまここにいなかった。
    「いや~、深夜にこの味は罪ですね。とろけるチーズと絡む酸味のあるトマトソース。こんがりしたサラミの旨味、トーストはカリカリなのに中はふわっとしてて……」
    「ルーク、もう一枚余ってるけど食べる? おじさんが食べるとカロリーオーバーになっちゃうからさ」
     モクマは笑いながら皿に残った最後の一枚を示す。ふたりとも二枚ずつ食べたのだが、五枚入りを全部焼いたのでちょうど一枚余るのだ。
     赤いラベルのペットボトルから口を離して、ルークは元から大きなエメラルドによく似た目を丸くする。
    「ええっ、いいんですか」
    「いいのいいの。その代わりさ、おじさんの昔話聞いてくれる?」
     モクマがペットボトル片手に空いた手をひらひら振りながら笑うと、ルークは一も二もなくうなずいた。
    「モクマさんの話なら頼まれなくても聞きます! むしろ聞かせてください」
    「じゃあそれ食べながら聞いてよ」
     ルークは一枚残ったピザトーストを手にして、それにかぶりつく。
    「……あれはおじさんが橋の建設現場で、作業員として働いていた頃の話なんだけど」
     ルークは口をもごもごさせながら、語り始めたモクマの顔を見つめた。モクマは視線を床の方へ落とすように目を伏せる。
     
     ――まあ建設現場の作業員なんて力仕事でしょ。おじさん力仕事は得意だからけっこう頑張って働いてたのよ。体動かしてる間は余計なこと考えずに済むし。
     でもさ、張り切りすぎちゃったのかな。夏の蒸し暑い日に疲れて汗かいたまま風呂にも入らず、仮住まいのアパートで寝落ちしちゃったから、ちょっと風邪引いたの。朝起きたら頭は割れるように痛いし意識は朦朧としてるから熱もある自覚あったし。しかも喉も痛くて声ガラガラでさ。その声で仕事先に電話で「今日は休ませてください」って伝えたらさ、「ゆっくり休んで治せよ」って言われちゃった。
     さて、喉の渇いたおじさんはコップを出すのも億劫で、流しで蛇口から直接水出して飲んで、もう寝ようと思ってフラフラしながら布団に潜り込んだわけ。もう最悪だったね。こんな夏の日に震えるくらいの寒気は止まらないし。でもまあしょうがない、悪いのは自分だって思って朦朧とした意識のまま落ちるように寝ちゃったの。
     んで、ここまでがよくある話。――え? あー、前置きが長くてごめんね。ここからが本当に聞いてほしかった話。
     風邪とか病気の時ってよく変な夢見るじゃない? 俺もたぶんそれだと思ってるんだけど、寝たと思ったら目が覚めたの。窓からまだ朝日射してるし、体感で二十分も経ってないからおかしいなって思いながら、枕元の携帯で時間を見ようとしたら電源ボタンがないわけ。必死で考えたけどなんで電源ボタンがないのかわかんなかった。熱で頭がぼうっとしてたからだね。なんで電源ボタンがないんだろう、なんでないんだろう、って思いながらまた疲れて寝落ちしちゃった。
     と思ったらまた俺はアパートの部屋で目を覚ました。さっきと同じ横向きで寝たままの体勢で。あーさっきの夢だったんだ。道理で携帯に電源ボタンがないわけだよ。と思ったら玄関からピンポンが聞こえてね。「すみませーん、水道局の者ですけど」って聞こえるもんだから、ああ水道代払えてなかったかもって思い当たる節が。だから出なくちゃ、って思うんだけど体は動かなくて声も出せなくて。今考えたらおかしいんだけどね。
     はっと気づいたらまたアパートの部屋の中で布団に横向きに寝たまま。しかも誰か、子供数人が部屋の窓の外を笑いながら走り回ってる音がする。おかしいよね。ここアパートの二階なんだよ。なんだ夢か、って思ったらまた目が覚めた。
     さすがに俺も本格的におかしいと思い始めたのはこのへんから。だって横向きに寝てる俺に覆いかぶさるように黒い影があってね。なんかそいつずっとブツブツブツブツ呟いてるんだよね。でも俺、金縛りみたいで指先ひとつ動かせないし声も出せないわけ。必死で視線だけ動かすと、そいつ、顔のところだけぽっかり穴が空いててさ。ヘタクソなチョコドーナツみたいに天井が穴から透けて見えた。
     また俺は布団の中で目を覚ました。何度目だよ、と思ってたらバンと玄関が開いてさ、制服を着た作業員みたいな男が飛び込んできた。で、俺の顔を覗き込んでさ。「よかった、あんたには名前が書いてある!」って。俺、玄関には鍵かけといたはずなんだけど。ていうかあんた誰? 名前が書いてあるってどういうこと? って聞こうとしたら声が出なくて。で、そいつの顔がさ、ぐにゃあって歪んで。コーヒーに牛乳注ぐと白と黒が混ざるじゃない? あんな感じ。顔のパーツがぐちゃぐちゃでのっぺりな顔になって。でもってそいつがイヒヒヒヒ! って高笑いし始めたから俺はガタガタ震えながら、指先ひとつも動かなくて逃げ出せない恐怖で失神した。
     次に目を覚ましたのは昼前、十一時頃だった。エアコンついてないし暑さで目が覚めたんだろうね。今度はちゃんと体が動くし変な現象もない。だから、うっわー起きても起きても夢の中なんて嫌な夢だったなあ、ってフラフラしながらまた水を飲みに台所まで行ったわけ。
     ちなみにその時俺の住んでたアパートはワンルームで台所の流しが兼洗面所だったの。だから朝にひげを剃るためのスタンドミラーが置いてあったんだ。さっきみたいに直接蛇口から水を飲もうとして体を屈めたらさ、書いてあったんだよ。鏡文字だけどすぐに分かった。
     ――俺の、顔にさ。のっぺらした目も鼻も口もない肌色に『円道黙真』って、マイカ文字を筆で書いたみたいな名前が。
     俺は腰を抜かしてその場にへたり込んだ。その時ぐらっと来てね、また意識を飛ばしちゃった。
     次に目が覚めたら台所のシンク前で、外は暗くなってた。もう俺はどこからどこまでが夢で現実なのかわからなくて、怖くてその場にうずくまったまま動けなかった。そのまままんじりともせず次の朝を迎えたよ。
     朝日が射し込んでくると、なんでか、もう大丈夫なんだなって安心感があった。それに不思議と体が軽くて、風邪も治ってた。おそるおそる鏡を見たけどそこにあったのは元の俺の顔でさ。シャワー浴びて仕事に向かったら仲間に「風邪は治ったみたいだな。よかったよかった」って笑って肩を叩かれたよ。
     ――はい。おじさんの話はここでおしまい。いやー長い割にオチがなくてごめんね?
     えっどうしたのルーク。「怖かった」? ……やだなぁ。熱出した時に見るただの悪夢の話だよ。
     でもおじさん、あれから夢と現実の区別がつきにくくなっちゃって――ってのはまた別の機会だね。……さ、コーラ飲んだら寝ようね。ルーク。
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    高間晴

    DOODLETLに花見するチェズモクが流れてきて羨ましくなったので書きました。■夜桜で一杯


     新しく拠点を移した国では今が桜の花盛りだそうだ。それを朝のニュースで知ったモクマは「花見をしよう」と期待たっぷりに朝食を作るチェズレイに笑いかけた。
     日が沈んでからモクマはチェズレイを外へ連れ出した。桜が満開の公園へ行くと、ライトアップされた夜桜を楽しむカップルや友人連れの姿がちらほら見える。一箇所、満開の桜の下が空いていたので、そこにビニールシートを広げて二人で座る。持ってきたどぶろくの一升瓶からぐい呑みに注ぐとモクマはチェズレイに渡す。続けて自分の分もぐい呑みに注ぐと、二人で乾杯した。
    「や~、マイカから離れてまた桜が見られるとは思ってなかったよ」
    「それはそれは。タイミングがよかったですね」
     モクマがいつにも増して上機嫌なので、チェズレイも嬉しくなってしまう。
    「おじさん運がなくてさ。二十年あちこち放浪してたけど、その間に桜の花なんて一回も見られなかったんだよね」
     でもそれもこれも全部、なんもかも自分が悪いって思ってた――そう小さな声で呟いてぐっと杯を干す。
     このひとはどれだけの苦しみを抱えて二十年も生きてきたんだろう。事あるごとに何度も繰り返した問い 1240