過去に戻って高杉に頬にチューしてもらわないといけない話2(高銀)例えばの話である。
「助けてくれ高杉!実は俺は未来から時間逆行してきてて、高杉にほっぺにチューしてもらわないと消えちまうんだ!」
と、素直に打ち明けたとして、「そうか、わかった」と、高杉が頷いてくれる可能性の確率について、わざわざ語る必要はあるだろうか。
否。
100パーセントの確率でドン引きながら、「ああ、ついに脳にまで糖分が回ったのか」と、いっそ哀れみの目を向けられるに違いない。
俺だってそう思う。
というか、普通に怖い。
しかも、恋愛関係でもななんでもない。
ただの、腐れ縁の幼なじみ相手にである。
「おっと、足が滑った!」
そんな俺はやけくそになって、この時代に来てから何度目かの高杉に向かってフライアウェイ!
そして、ひょいと避けられてそのまま廊下に顔面からダイビング!
「テメェ!何避けてやがんだ!」
「避けるに決まってんだろ阿呆」
本日何度目かの俺の決死の「曲がり角でうっかり事故ったアタック作戦」はことごとく、この空気を読めない低杉のせいで不発に終わっていた。
「なんなんだ、テメェはさっきから」
「別になんもねーし?」
「ざけんな。用があるならはっきり言え。鬱陶しい」
これみよがしにため息を吐く高杉は、当然ながら、現代の高杉よりもずっと若い。
かすかに幼さの残る顔は、非常に不本意ながらも、俺がこの男への恋心を自覚した頃の高杉だ。
「あ?なに見てんだ」
「見てねーよチビ!いい気になるな低杉!」と、悪態を付きそうになるのを、ぐっとこらえる。
今は耐えるのだ坂田銀時。
「高杉ー、ちょっとほっぺに出来物できちゃってさあ、見てくんねぇ?」
「は?なんで俺が?」
「いいから!なんかさ!もうかゆくて!かゆくて眠れないの!」
「はあ?」
露骨に猫なで声を出す俺に怪訝な顔をしつつ、高杉が俺の頬に顔を近づける。
そういう甘さがお前の命取りだ高杉!
「おーと、貧血かな!思わず倒れちゃった!」
そのまま高杉に向かって倒れ込む。
これで頬キッス・チェックメイトだ!
あばよ初恋の高杉!俺は現代に戻ってやるぜ!
「おお!金時!高杉!こんなところにいたがか!おっととと!足が滑って二人にぶつかってしもうたぜよ!」
「うわ!」
「どわっ!」
突然、真横からの第三勢力による衝突により、
高杉ともつれ込むようにして倒れ込む。
床に背中をしたたかに打ちつつも、なにやら頬にふにょんとした感触。
(お……これはミッション成功か!?)
うっすらと目を開けば、黒いモジャモジャがそこに見えた。
「なにしてくれてんだ、テメェエエ!」
上に被ったままの辰馬を蹴落として、そのまま足蹴にして庭に蹴り落とす。
「なんで、テメェが俺のマシュマロほっぺに事故ちゅーしてくんだふざけんなボケ!」
「いだだっ!そんな怒ることなかろう!事故じゃしいだだだ!ちょ、蹴るのやめっ」
「下らねェ。俺はもう戻るぜ。辰馬は後で殺す」
「え、なんでワシさらっと殺害予告されたの?」
俺と辰馬に潰された形の高杉が額に青筋を浮かべながら、辰馬を一蹴りすると、そのままよく分からない怒気を滲ませた背中を向ける。
「あ!ちょっと待て高杉」
「あ?」
「なんだ、貴様らこんなとこにいたのか!おおおっと!こんなところにバナナの皮が!すってこんころりんしてしまい、銀時と高杉を巻き込んで転んでしまった!」
「げ!」
「うっ!」
再びのバカによる衝撃に床に沈み込む俺と高杉。
そして今度は唇にふにょんとした感触。
ん……?
唇に?
おそるおそる目を開く。同じく目を見開いた高杉の顔が、そこにあった。
いや、てか、これ、近っ、てか、え……。
「ナニ口にしてやがんだてめぇは!」
思わずその顎にアッパーカットを決めてしまったのは、花も恥じらう十七歳の初心な男心として、致し方ないことだった。