高杉に衆道を教えてもらう白夜叉の話(高銀)「なー、高杉。衆道って知ってる?」
その台詞に、高杉は飲んでいた茶を吐き出して噎せた。
「は……は!?」
高杉のために宛てがわれた部屋の襖を断りもなく開き、ドカドカと音を立てて入ってきた銀時が開口一番の言葉である。
「お前って武家の生まれだよな」
「勘当された身だがな」
「あ、そういうのはいいです」
「……」
「三村っているじゃん」
「……ああ、あの武家出身だって威張り散らしてる四男坊だろ」
武家の世界では、長男や次男ならともかく、四男の扱いなど知れたもの。それでも、庶民出身が多いこの場所では武家というだけで大きな顔をする。
お猿の大将というには、少々力不足が否めないが……。
「そいつがさぁ、衆道の嗜みを教えてやるから、今夜部屋にこいって」
「馬鹿!絶対に行くな!」
高杉が思わず声を荒らげる。それに対して、銀時はこてんと首を傾げた。
「なんで?てか、衆道ってなによ?武士の習わし?なんだろ?お前知ってる?」
「そ……それは……」
下の毛も生え揃わぬうちから見知った相手に下事情を語る気恥ずかしさに、高杉はためらう。
しかし、このままでは銀時があのいけ好かない男に掘られてしまうかもしれない。
銀時のことだ。相手を返り討ちすることは容易だろうが、変なところでチョロいところがある男だ。万が一ということがあってからでは遅い。
「その、歴史とか文化とか色々とあるが……その……契りのことで……端的に言うと……お、男同士でエロいことすんだよ」
ぱちくりと、銀時がまばたきをする。そして心底不思議そうに、
「どうやって?」
と、首を傾げるので、高杉は頭を抱えた。
ウブなのだ、銀時は。
普段から下ネタや下品な発言を繰り返すくせに、ふとした時に無垢になる。
「んなもん自分で調べろよ!」
「じゃあ、ちょうどいいから三村に聞きに行くわ」
「あいつは止めろ!ヅラとかいんだろ」
「あいつ偵察部隊で今朝出てったろうが。来週まで戻ってこねーよ」
「……」
「なーなー、どうやってするんだよ?エロいことって」
頭を抱える高杉に、銀時がのしかかりながら、なー、なー、なんで、なんで、とまるで子どものように、疑問を畳み掛ける。
「だから……く、口でしたり、け……ケツの穴でしたり……すんだよ」
「ケツの穴ァ?ケツって……このケツ?」
銀時が自分の尻をぽんっと叩く。
「ああ、そうだ。だから、三村の部屋には行くな。行ったらテメェ、口やらケツやらにあいつの汚ねぇちんこ入れられるハメになるぞ」
「うげぇ」
銀時が嫌そうに顔を歪める。これでこの話も終わりだ。そうほっとしたのもつかの間だった。
「でも武士の習わしなんだろ?武士ってみんなそんなことすんの?なんで?なんで?」
「主君との結束を高めるためにしたり……あと、戦場に女がいねぇから代わりに、したりするんだよ」
「えー?男同士でエロいことすると結束高まるの?女がいねぇからって男にムラムラするってこと?そんなことある?高杉もすんの?したことあんの?」
「あるわけねェだろ!」
「えー、でも」
「しつけーぞ、銀時」
どうして同性の幼なじみとこんな下世話な話をしなければいけないのか。
高杉が苛立ちのままに舌打ちすると、銀時は「はっはーん」といやらしく笑った。
「さては高杉くん。自分がたいして知らないから、教えられねぇんだな?」
「あ?」
「いやぁ、悪いなぁ。そうだよなぁ?チビで童貞の高杉くんに色事?なんか分かるはずないもんなぁ?」
びきり、と高杉の額に青筋が浮かぶ。
「俺ァ確かに経験はねーが、テメェみたいな馬鹿よりは物事を知ってるつもりだぜ。いいぜ、それなら俺が直々にテメェに衆道を教えてやるよ」
「え?」
「テメェも衆道がなにか知りてェんだろ?ちょうどいいじゃねぇか」
「え?あ?」
「逃げるなよ」
「に、逃げねーよ」
「どうだか。すでに怖気付いてんじゃねぇか?」
「なっ、怖気付いてなんかねぇよ!テメェと一緒にすんじゃねぇよ!ばぁか!」
「なら今夜、俺の部屋に来い」
「上等だ!テメェこそビビって逃げんじゃねぇぞ」
ビシッと中指立てると、入ってきたときのようにドスドスと音を立てて銀時は部屋を出る。
「え……」
銀時は途端におろおろとし始めた。
「え……?え……?ちょっと待って、勢いでなんか、言っちゃったけど、ようするに俺と高杉が今夜エロいことするってこと?ヅラに相談……あ、ヅラいねぇんじゃん」
顔を赤くし、眉尻を下げながら、銀時はひとりあたふたとする。
「口で……はなんとなく、想像つくけど、ケツでってなに?え?え?」
高杉の心配は見事的中した。
銀時は非常にウブでチョロいのだ。
「と、いうわけなんだけどどうしよう三村くん」
「お前よくこの流れで俺のところに来れたな」
件の三村が呆れたように言うと、銀時はむっと眉尻をつり上げた。
「元はと言えばテメェが衆道だなんだ言い出したから、こんなことになったんだろうが!」
「元の元はと言えば、お前が最近高杉が気になって見てると胸がドキドキするって言うから……」
「誰があんな低杉にドキドキムラムラするっつったよ!」
「誰もムラムラとまでは言ってねーよ。まあ、ちょうどいい。俺から餞別として、お前にいいものをやろう」
「なにこれ?」
「通和散」
「つーわさん?」
「ぬめり薬だ。ケツに入れるとぬめぬめする」
「なんで?」
「ケツにちんこが入れやすくなる」
「ケツに……」
「そう、ケツに」
「こ、怖いよぉ〜、ついてきてよ」
「いや、ふざけんなよ。俺も命が惜しいし」
三村はすげなく言うと、すがりつく銀時を剥がす。
「まあ、お前が高杉の口吸って押し倒してやれば、あとはあいつが勝手に欲情して襲ってくるから大丈夫だ。大人しくマグロになって天井のシミでも数えとけ」
「ってことで、三村に通和散なるものをもらったんだが、これどうすればいい?」
「テメェ、よくこの流れで俺の部屋にきてその話ができるな」
「あ、そういう反応もうさっきもらったんで結構です」
「ぶち犯すぞ」
高杉の部屋に敷かれた布団の上に座り込み、銀時は通和散を高杉に押し付ける。
「いいから、これの使い方教えろよ」
「口に入れて噛むんだよ」
「ふーん。じゃあ、俺は天井のシミでも数えてるんであとは適当によろしく」
「何しに来やがったんだテメェは」
「好きにしやがれこの野郎!」
そう言って、布団に大の字になって倒れる姿には色気の欠片もない。
「テメェもちったぁ、可愛げ見せな」
「むぐっ!」
高杉は呆れたように息を吐くと、ちぎった通和散を銀時の口の中に詰め込んだ。
「おら。しっかり噛めよ」
「んー、もごもご、んー?」
銀時は口をもごもごとさせながら首を傾げる。ほんのりと甘い粘着質な食感は未知のもので、どうにも反応に困る。
「見せてみろよ」
あーんと口を開けさせると、高杉はその中にいきなり指を三本押しこみ、バラバラと動かしはじめた。
「むがっ!ぐむむ」
「ほら、しっかり唾液をからませろ……」
溶けた通和散を指に絡めながら、舌をこねくり回すように弄れば、銀時は苦しそうに顔を赤くする。
「いい顔になったじゃねェか」
「ん、あ、けふ」
高杉は満足気に目を細めると。銀時の口の中からどろりと溶けた通和散を掻き出して手に取る。
「バカ!変態!」
涎で濡れた顎を拭いながら、銀時は高杉を睨みつけて横腹を蹴飛ばした。
「帰る!」
「今さら逃がすわけねェだろうが」
そう言って逃げようとする銀時の足をつかんで引きずり寄せると、高杉はその裾を捲りあげる。
「え?」
「据え膳食わぬは男の恥ってな」
「は?」
「飛んで火に入る夏の虫ともいう」
「ん?」
「おら、折角てめえが溶かした通和散。塗ってやるから尻だしな」
「ちょ、まっ、あーーっ!」
後日、三村のところに全身に鬱血痕と噛み跡を散らした銀時が「マグロどころかお馬さんごっこまでさせられた!」「なにが侍だ!あいつはケダモノだ!チンコの化身だ」と泣きつき、それを追いかけてきた高杉と一悶着あったという。