酔っ払って坂田にベタベタする高杉の話(高銀)これはあんまり人に信じて貰えないことだが、おなじゼミの高杉晋助は酔ってご機嫌になると、やたらと人のことをベタベタ触ってくるようになる。
スキンシップ?ボディタッチ?
とにかく、なにかにつけて腕や太ももを触ってきて、しまいには肩を抱きながら耳もとでぼそぼそと喋ってくるのだ。
しかし、そのことをゼミやサークルの誰に話してみても、誰もが口を揃えて「そんなことあるか」と否定してくるのである。
以下、そんな声の一部抜粋。
「えー!高杉くんそんなセクハラみたいなことしないよ」
「そもそも高杉が酔ってご機嫌になる?いつもムスッとした顔で黙って飲んでるだけじゃん」
「自意識過剰乙です」
「高杉くんの悪口止めてくれる?」
「嘘だよ。高杉って潔癖っぽいところあるじゃん」
「私も高杉くんにベタベタ触られたいなぁ」
とのこことである。
俺の味方は誰もいない。孤軍奮闘のこの状態。
「銀時、この後二人で抜けて飲み直さねェか?」
ゼミでの飲み会。安っぽい大衆居酒屋。
そう言って、テーブルの下の俺の太ももをすりっとさするのは、いつのまにか隣に移動してきた高杉だ。
ほんのりと顔が赤く、酒精で目が少しだけ潤んでいるのがやけに色っぽい。イケメンはどんな状態でも様になるらしい。ムカつく。
てか、やっぱり触ってんじゃねェか。おい、見ろよお前ら。こいつめっちゃ俺の手をにぎにぎと握ってきてんだよ、おい!お前らの目は節穴か!
「あー、悪いけど俺門限あるからさ。そろそろ帰らないと親に怒られるんだよね」
「二十歳過ぎた大人が、そんなガキみたいなこと言うんじゃねェよ」
「いや、ほんと。俺箱入り息子だからさ。すげぇ、厳しくて怖いんだって俺の親」
「そんなに怖いってんなら、本当かどうか確かめてやるから、今度合わせてみろよ」
「しれっと親に挨拶しようとすんな」
「なあ、銀時。まだ腹減ってるか? そうでもないなら、このバーなんかどうだよ」
「勝手に近場の店を検索するな」
腰を抱いてきて体を密着させながら、高銀が自分のスマホの画面を俺に見せてくる。
いやいや、おかしいだろこの距離感!しかも、なんか髪まで撫でてきてるし!テメェは俺の彼氏かなんかかあ!彼氏だった!そういえばこの間から付き合うことにしたんだった
自覚した途端に顔が赤くなっていくのを、高杉がニヤニヤとした顔で見てくる。ぶん殴りてぇ。
「ああ、それとも……こっちのほうがよかったか?」
高杉の指がスイスイとスマホを操作する。画面に映し出されたのは、近場のラブホテルの検索結果だ。
「お前、まじでふざけんな」
「ふざけてなんかねェよ。なあ、俺たちそろそろ次に進んでもいいと思わねェか?」
「酔っ払いの戯言なんか本気にするかよ」
「素面なら良いって言うのか?」
「盛ってんじゃねェよ」
「……悪かったよ。あんまりにもテメェがうぶな反応するから、少しからかってやっただけだよ」
高杉が両手を上げて降参のポーズをとる。その潔さが少しばかり白々しい。
「なあ、何もしねェから抜けようぜ?恋人とふたきりになりたいっていう、可愛いおオネダリくらい聞いてくれよ」
そう言って顔を寄せる高杉の、アルコール臭い吐息にすらときめきを感じるのだから、俺はもう末期だ。
「……ちょっとだけだからな。一杯だけ飲んだら帰るからな」
うなじをスリスリと撫でてくるやらしい指を外しながら、俺は不承不承というていで頷き、目の前に残ったビールを一気に煽った。
ちなみにこのあと、詳細は省くが俺ははじめて朝帰りというものを経験し、その足で恋人を家まで連れていき、一晩中門の前で仁王立ちしていたという親に紹介するという、まあとんでもイベントを体験することになるのだった。