空閑汐♂デイリー【Memories】31 目の前に居たのは帽子を目深に被るひょろりとした長身の男だった。それでも汐見よりは背が低く、捻りあげるのは簡単で。汐見はその男の腕を捻りあげ、壁へと押し付ける。男が被っていた帽子が床へと落ち、汐見の後ろに立っていたシェルツが小さく声を上げた。
「お嬢、知り合いか」
思わず低く出た声に、自身の苛立ちを自覚する。気を取り直すように幾度か咳払いを漏らした汐見は「お嬢?」と今度は意識して柔らかい声を作った。空閑の真似みたいな声に、小さな息を吐いたシェルツは小さな声で言葉を返す。
「あの、私が担当した患者さんです……この間退院した……」
「そうか。因みにこの男と知人友人恋人もしくはそれに類する関係になってたか?」
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