三
パルコニーから飛び降り、意識の途切れる瞬間、脳裏に浮かんだのは妹の笑顔だった。意識を取り戻し彼女の目に映る景色はまたあの華美な部屋。
寝かされていたソファーの向かい側へ目をやれば、向かいのソファーに座り頭を抱えてうずくまっている看守長。数時間前に見た光景と全く同じで夢でも見ているのかと着ている服を確認すると、ぶかぶかのローブが血でべったりと汚れていた。血に驚いて体を確認するが痛みも無く、怪我どころか打撲痕一つないきれいなものだった。
どうなっているのか聞こうかどうしようかと看守長に視線を向けるが、彼は頭を抱えうずくまったまま動く気配がない。
彼のゆるくカールした白い髪を見ていると彼女が子供の頃可愛がっていた犬が連想され、撫でまわしたい衝動がうずうずと沸き起こって来る。さっき触った時は押し倒されはしたが別段ひどい目にあわされたわけでも怒られたわけでもない。我慢できなくなり、少しだけならと恐る恐る頭をなでてみた。
9037