「あ!ケニーッ!夏休みさっ!ハワイ行こーっ!!」
横並びのロッカー。忙しく教科書を出し入れするケニーに話しかけた。この後まだ授業なのかな。高校に上がって、全然授業が被らなくなっちゃったけど、運良くおれとケニーはロッカーメイトだ。授業の合間に会えるのがうれしいなって思う。ケニーはどう思ってるかよくわかんないけど。
「いや無理。ぼくめちゃくちゃバイト入れちゃった」
ロッカーの奥の方をひっくり返しながら、こちらを見ようともせず間髪入れずに素っ気ない返事が返ってくる。おれはさすがにさみしくって、食い下がった。
「い、1日くらい、ダメかなあ・・・?」
「無理。大学行きたいもん。勉強もしなきゃ。奨学金狙ってんの。」
「そ、そっか・・・えらい・・・がんばってねっ!」
ありがと、やっぱりケニーは素っ気なく言って、バタンとロッカーを閉めたあと、教室に走って行ってしまう。
そんな感じで、高校3年間は彼と、あの、灼熱の太陽を浴びることなく、あっさりと終わってしまった。ちなみに、大学生になったケニーには「カレンに大学出てほしいんだよ!!学費なんとかしなくちゃいけないの!!他の人と行けよ!!」とキレ気味に断られ続けることになる。
その後何年か経って、ケニーが就職決まったってカイルから聞いた。その時期がびっくりするくらいはやくって、おれなんかまだ全然決まりそうもないのに、やっぱりケニーってすごいなあって思いながら連絡するに至るのだ。
「やったー!!ハワイー!!」
「あっつ・・・死ぬ」
自分の分と、おれの分のスーツケースを転がしながら、長袖シャツの袖を捲りあげている彼を振り返る。ケニーは嫌そうな顔をした。たぶんおれは、すっごく嬉しそうな顔をしているんだと思う。
はやくホテル行こうぜ、って、既に疲れきったみたいな顔をする彼に、うんうん!って、あっちだよ!とホテルの方角を指さして導いた。
「あのね!すっごいキレイで有名なホテルなんだよ!ケニー知ってるかなっ?楽しみにしててねっ!」
「・・・あっつい・・・・・・」
「朝ごはんも出るからね!おれ、ハワイの朝ごはんってだいすき!エッグベネディクトとかさ、おいしいよね!たまにお母さんが作ってくれたな~」
「・・・きみ、相変わらずよく喋るね」
楽しそうで何よりだよ、って言われても、おれはそれが嫌味なのかなんなのかよくわかんない。だから、ケニーといっしょで楽しいし嬉しい!って言って、そしたら、うるさ。って言われる。悲し。