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    あいぐさ

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    あいぐさ

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    無配にするつもりだったゆるーいフィガファウ、踊ってます

    霧の人 季節の真ん中、月がとびきり輝く熱い夜。年に一度のお祭りがある。栄光の街の祭りに比べたらうんと小さいけれど、うちの村ではうんと大きな祭りだ。
     みんな、その日を楽しみにしてる。でも、ぼくは、少しだけ憂鬱かもしれない。
     だって、すごく頭が痛くなるから。

     中央の国と北の国の間。中心街からはうんと離れた田舎の小さなこの村には、普段は旅人ぐらいしか訪れることはない。
     村人たちは皆知り合い。隣の村や、足を伸ばせばもっと栄えた街にもアクセスはできる。
     けれど、皆この小さな土地を気に入り、山や森に囲まれながら暮らしているんだと思う。少なくとも、ぼくの両親はそう言っていた。
     そんなこの場所が唯一多くの人で賑わうのが村のお祭りの日だった。
     栄光の街のお祭りを知っている人からすれば大したことはないだろう。けれど、村中に色とりどりの旗を飾り、地面に絵を描いたり、ランタンを飾ったり。その日だけはシンプルな村がうんと華やかで明るくなるのだ。
     若い衆は皆観光にくる人々の案内役や受付を任される。もちろんぼくもだ。村に来てくれた人たちに小さな旗を配っていた。
     どうぞ、どうぞと忙しなく渡していると、ふと男二人組が目に入る。聴診器を首にかけたお医者さまのような背の高い人と、真っ黒で眼鏡と帽子を被っている人。どうぞと旗を渡せば、一人は笑顔で受け取り、もう一人はどこか気まずそうにしながらも、それでもちゃんと受け取ってくれた。
     それからは出店の手伝いをしたり、観光客の人たちを案内したり。
     気付けばすっかり夜。月明かりの元、ゆらゆら光るランタンがカランカランと風に揺られる。
     村の祭りに大切なものは三つ。
     一つ、楽しい踊り。
     二つ、にぎやかな音楽。
     三つ、みんなの笑顔。
     広場に大きな花火が打ち上げられ、村長の美しい笛の音がなる。にぎやかなメロディが流れてきて、人々は皆楽しげに踊り出す。
     住人ならすぐに身体が踊り出してしまうメロディは村に代々伝わる音楽だ。伝統音楽といっても、毎年演奏者が好き勝手に編曲しているためあまり古さを感じないと思う。多分だけどね。
     踊りも簡単、くるくると回りながらステップを踏み、両手を上げたり下げたりするだけ。時折手を取り合って踊り合うこともある。とりあえず、楽しかったらいい。
     出店でドリンクを売りながら、ぼくは陽気な村人たちの様子を眺めていた。一張羅を着て踊りながら手を振る幼馴染に軽く手を振り返しながら、休みにきた人々に冷たいジュースを渡していく。
     そのとき、昼間に見た二人組が現れた。一人はポケットに旗を入れていて、もう一人は左手でぎゅっと握っている。踊りの時間には帰っていきそうだな、なんて思っていたもののちゃんと楽しんでくれているらしい。
     背の高い男からお金を受け取り冷たいミックスジュースを渡せば、彼は楽しそうに笑った。
    「きみは踊らないの?」
     男に話しかけられ、ぼくはちょっと笑ってしまう。観光客の人にそんな心配をされたのは初めてだ。
     もうすぐ参加しますよ、なんて言えば、男はにこりと笑う。
    「いいね、楽しそうだ」
     にこりと笑った彼らは、踊りの輪と反対の壁際にすぐに移動する。どうやら全く踊る気がないらしい。そんな二人をチラリと見ながら、ぼくは果物を機械に入れていく。
     どうしても気になって何度か見ていれば、二人にも気付かれてしまったらしい。背の高い男が容器に空になった飲み物を持ち上げる。
     ぼくはぐるぐると回り続ける踊りを指差した。
     せっかくここに来たなら踊っていかないと。そんなぼくのお節介に男たちはお互い顔を見合わせて、そしてにこりと笑う。
     手を引いたのは、きっと真っ黒の男の方だった。背の高い男は驚いた顔をしつつ、どこか楽しそうについていく。
     アップテンポな曲に合わせ、輪の端で二人はにこやかに踊る。真っ黒の男が軽やかに腕をあげればケープがふわりと揺れ、白い手袋で宙に絵を描いた。時折手を合わせたり、肩を組んだり。身長差がある分どこか合わせやすいのかもしれない。
     きっと、街中で大人の男が楽しげに踊ればたくさんの注目を浴びてしまうだろう。
     けれど、今日は年に一度のお祭りの日。おまけにここには踊りに全力な村人と踊るためにきた陽気な観光客しかいない。そんな彼らは自分たちが楽しむことに全力を尽くしている。
     不思議な人たちだなと思う。都会の人みたいなのに、この村にすっと馴染んでいる。彼らは友達とはどこか違う気がして、家族にはなんとなく見えない。そんな謎めいたところもつい気になってしまう。
     二人は楽しそうに踊っていた。一周もしないうちに壁際に引っ込んでしまったけれど、それでも彼らは確かに笑っていたと思う。
     踊りゆく人々を見ながらお客さんにジュースを配っていれば、あっというまにに店番交代の時間になる。晴れて自由になった僕は盛り上がっている踊りに参加すべく飛び出した。
     広場で幼馴染に手を引かれ、二人で一緒に踊り出す。一周回ったあたりから頭がズキズキと痛み、二周目に目の前が真っ暗になる。 
     ああ、倒れる。その瞬間、ぐっと腕を引かれる。目の端に映ったのは、先ほどの男たち。
    「大丈夫だよ」
     そんな言葉に妙な安心感を抱きながら、暗闇に沈んでいった。

     あれから目が覚めると祭りはとっくに終わっていた。心配そうに見守る家族や友人たちに、踊りながら倒れてしまったことを教えられる。
     あの日、誰かに助けられた。けれど、モヤがかかったように思い出せない。村人たちに尋ねても、ぼくはベンチで横になっていたこと以外なにも知らないらしい。
     誰かが踊っていた。誰かに笑いかけられた。誰かに手を引かれた。

     そう、確かに、誰かが踊っていたのだ。
     
     
     
     
     

     
     
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