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    あいぐさ

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    あいぐさ

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    うっすらドムサブのフィガファウ!ファの隠れた癖を話し合いで探していく話

     きみのためにふわふわのラグを用意してみたんだ。床は冷えてしまうからね。きみが許してくれることが本当に嬉しいんだ。本当だよ。大丈夫、きみの嫌なことは絶対にしないからね。
     体調不良でファウストが倒れて再びプレイするようになり、首輪を貰い、そして今。尊大な態度でありながらつくし系のフィガロによって、ファウストのダイナミクスは四百年の間でも類を見ないほど安定していた。
     今では頭が痛くなったり、加虐的な思考に囚われたり、身体の奥の心から冷え込み動けなくなることもない。けれど、だからだろうか。優しく頭を撫でられるたび、褒められるたび、嬉しさと一緒にもどかしい気持ちが生まれるようになった。
     小さな違和感は精神が平穏な日々が続くほど大きくなっていく。きっと勘違いだ。そう言い聞かせていたけれど、考えれば考えるほどに思考が囚われてしまう。今では、つい先ほどお気に入りのマグカップを割ってしまうほどに不安の種は大きくなっていた。
     さすがにこのままではいけない。けれど、満たされているのにそれ以上を望むなんて。ああ、ずいぶんとわがままになったと思う。
     けれど、わがままにしたのはフィガロなのだ。そんな八つ当たりの責任転嫁をしながら、夜更けにファウストは一階の扉を叩いた。
    「あれ、ファウスト?」
     不思議そうな顔をしながらも柔らかい笑みを浮かべ、フィガロは扉をゆっくりと開いていく。帽子を取り、律儀に礼をしたファウストに彼はいらっしゃいと優しく声をかけた。
    「……その」
    「うん」
     正直、自分の考えはうまくまとまっていない。けれど、話さなければ。
     ファウストは焦っていた。何か言わなければならないのに言葉がうまく出てこないのだ。黙り込むファウストは不安げに見つめるフィガロの瞳には気付いていない。それほどに、彼の頭は混乱でぐるぐると回り続けていた。
    「いいよ、ゆっくり聞かせて」
    「ああ……」
     話したいことがある。そんな心を読むようにフィガロから声をかけられ、ファウストはゆっくりと息を吐いた。
     拙い言葉で誤解はしてほしくない。けれど、胸の中に渦巻く感情をうまくまとめることはとても難しいのだ。ああ、もう少し考えてから来ればよかった。そんな後悔をしながら、ファウストはゆっくりと口を開く。
     端的に言えば、最近どこか物足りなく感じている。贅沢だと分かっているけれど、解決方法を一緒に考えてくれないだろうか。
     そんなファウストの悩みを聞いて、フィガロは眉を下げ、ゆっくりと頷いた。
    「それは最近?」
    「自覚したのは、多分」
    「なるほど。じゃあ、次はきみの違和感を探っていこうか」
     まるで授業みたいだなと思いつつ、ファウストは静かに頷く。効率的な方法は、彼が真面目に自分に向き合ってくれている証拠だろう。
     フィガロは怒らなかった。小さな質問を積み重ねていき、ファウストも真摯に向き合い応えていく。聞かれることも至って真面目。時折自分の性癖を晒すような質問もされるけれど、必要なことだと言い聞かせて顔と耳を赤くしながら淡々と話し続けた。
    「……なるほどね」
     どこか考え込むようなフィガロからの返事を聞きながら、ファウストは静かに目を伏せる。
     フィガロからの質問に答えていけばいくほど、ファウストは己の欲望と向き合うことになった。その行為は自分の秘めていた要望を開示させられたのと同然だろう。口を開けば開くほどフィガロへ自分勝手な浅ましい気持ちを押し付けているようにすら思ってしまうのだ。
     けれど、話さなければ進まない。ファウストは一生懸命に伝え続けた。そうすることでファウスト自身も思考が整理されていき、自覚できる程度には結論を導き出すことができたのだ。
    「つまり、きみの欲求は俺からの奉仕では満たされないってことかな」
    「………………はい」
    「そんな顔しないで、大切なことだからね」
     これほどまでに返事をしたくない問いかけは人生でも珍しいだろう。自分の醜さとフィガロへの申し訳なさでおかしくなってしまう。
    「できれば俺はきみには優しくしたいんだけどね……、うん、どうしようか」
     ハードなプレイをしたり、痛めつけられることはおそらく苦手。酷い言葉をかけられたり、いじめられたり羞恥を煽られるのも嫌い。むしろ昔の嫌な記憶を思い出して気分が落ち込んでしまうと思う。
     だからこそフィガロは悩んでいるのだ。いつだってフィガロから尽くされてきたファウストはずいぶんと贅沢になってしまっており、生半可な行動や言葉では改善には至らない。
     じゃあ、一体どうすればいいのだろうか。答えは出たけれど解決策は出てこない状況に、二人はつい顔を見合わせてしまう。
    「……もしかして、マンネリとか」
    「マンネリ?」
    「飽きた、みたいな。それなら場所を変えたり、違う格好をしたり、うん、あとはまあ……いろいろあるよね」
    「そう、ですか」
     フィガロが言い淀んだことにはあえて触れず、ファウストは静かに頷く。
     正直、飽きるというのはピンときていない。けれど、フィガロの趣向を変えてプレイを試してみる話は純粋に興味があった。
    「そうだね、たまにはやり方をガラッと変えるのもいいかも。ほら、こんな服とか」
     いつの間にかふよふよと浮いていたオーブがくるりと回転すれば、フィガロの肩にかけられた白衣が上等でシンプルなマントに姿を変える。少しだけ伸びた髪は後ろで束ねられており、動きやすいシャツとパンツはよりかっちりとした古き良き服装へ。分厚い布で作られた襟元を触りながら、フィガロは静かに笑った。
    「……あ」
     見覚えがある姿に、ファウストからは感嘆の声が漏れる。
     忘れるわけがない、忘れられるわけがない。見覚えのあるその姿。立ち上がった彼は、四百年前に出会った偉大な北の国の魔法使いの装いに身を包んでいた。
     違うところといえば、今のフィガロがずいぶんと軟化して温和な雰囲気を身に纏っているところだろう。今は正直服に着られている感じがしてしまい、ファウストは小さく笑う。
    「懐かしいです」
    「うーん、もっと驚いてくれると思ったんだけど」
     きっとファウストの落ち着いた反応が面白くなかったのだろう。フィガロは少し拗ねたような顔をしつつ、サラリと前髪を軽くかきあげる。
    「雰囲気がいつものままなので」
    「うーん、昔、昔……」
     その瞬間、場の空気が変わった。
     氷のように美しくも鋭い目線。口角を上げた笑みはどこか相手を挑発するようにすら感じられる。加えて圧倒的な強者の覇気を身体中に纏っているのだ。首を垂れ許しを乞う魔法使いたちの気持ちが大いに分かった。
     背の高いフィガロからの冷たい目線に背筋がすっと伸びる。けれど、圧に屈した膝は力が抜けてしまいそうで、ファウストは必死に床を踏み締めていた。
     それなのに、なぜだろう。心がどうしようもなく喜んでいる。まるで蔑むような視線を向けられているはずなのに、ガクガクと足が震えているのに、幸せを感じてしまうのだ。クラクラするほどの溢れ出る魅力のせいなのか。それともこれが本当に欲しがっていたものなのか。理解が追いつかない。
    「……こんな感じ?」
     ふっと強者のオーラを弱めたフィガロの目の前で、ファウストはついに膝を折った。もう、限界だったのだ。走った後のように心拍が上がっており、震えながらそっと胸元に手を当てる。

     ラグがふわふわで本当によかった。慌てるフィガロをぼんやりと見つめながら、ファウストはただ微笑むことしかできなかった。

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