叶わない恋の代わりに完全なる愛をくださいはじめてオクタビオに出会ったのは、タリンから出港した客船の上だった。時折アルコールが恋しくなり、人間の姿をして船の中に紛れ込んではバーやラウンジで酒を嗜むという人間の真似事に興じていた。人間の価値観でいう“金持ち”ばかりを乗せた豪華客船であれば、酒を含む船内の飲食物はすべて金がかからない。人間の貨幣を持たない私でも、怪しまれることなく好きなだけ酒を楽しめた。
その日も気まぐれに頭上の海面をのっそりと横切っていく船に目をつけ、人目を憚り乗船した。いつもどおり酒を求めてふらりと立ち寄ったバーのカウンターに立っていたのがオクタビオだった。優雅な手つきでシェイカーを振り、出てくるカクテルはみな宝石のように美しい。
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