夢何日経っただろう。
この男の小さな塒に連れて来られてからほとんどの時間をこの小さな寝台の上で過ごしている。
部屋から外の様子はほとんどわからないから昼か夜かも定かじゃない。時間の感覚は完全に狂っていた。
身体に力は入らない。立ち上がり、駆け巡るような血の流れが止まってしまったような感覚は、身体が怠重くてうつらうつらと気を失うように眠っては短い感覚で目覚めて、しっかりと睡眠できている感じもない。
腹も減っているけど食欲はない。
今も浅い眠りから薄く瞼が開くと、同じ場所のパイプ椅子にYシャツの背中がキーを静かに叩く音を立てている。
猫背だなあ……
薄いシャツ越しに見える体躯は細すぎず、肩幅と肩甲骨で張られた線の間に入る筋肉が細かに動くことで別の生命を感じている。
何か声を出そうとしても掠れて出そうにないので、枕元に転がったミネラルウォーターのボトルを手に取るとその背中がゆるく振り向いて、ベッドに腰掛けた。
少し起き上がって水を含み、常温のぬるい液体が喉を滑り落ちて空っぽの胃袋に届くのを生々しく感じる。
男が俺の頬をそっと包んで柔くはにかむ。
不思議と嫌な感じがしない。
ずっとこの部屋に閉じ込めているのに何をするでもなく、ただ俺を寝かせてる。
俺も今丁度そうしたかったから逃げ出そうという気は起きなかったし、この男に守られているような気がして居心地がよかった。
大きな手のひらに頬を擦り寄せて、目を閉じる。男が首を傾けて近寄るのを、薄目で了承したら、乾いて皮のめくれた唇に柔らかく唇が触れた。
「汚ねえから」
カスカスの声で苦笑すると、少し悩ましげに眉根を寄せて、男は包み込むように唇を重ね、ゆっくりと俺を押し倒した。
そこからはよく覚えていない。
ただその日から、同じ寝床で夜を過ごすようになって、食事も少しずつ摂れるようになった。