溶けない氷はない 途絶えたはずの影を背負って、オクタビオは笑っていた。当時彼の頬に貼られていた白いガーゼは絆創膏となり、主張はこぶりになったものの、つけられた傷の大きさは変わらない。完治したって、ずっと残り続ける。アジャイから聞いた顛末が本当なら、彼に刻まれた傷は、簡単に癒えるものなんかじゃない。笑顔の中に潜められた感情は、どうあがいても、光の当たらない日陰でくすぶるそれだ。
戦場に流れる時の流れは、無慈悲かつ残酷だ。立ち止まる時があってはならない。躊躇も、遠慮も、存在する事が許されない、命の奪い合い。狂気の風が吹き付けるそこで、オクタビオの顔面を殴りつけてトドメを刺したのは他でもない俺で。割れたゴーグルの奥にあるエメラルドの目が、涙をこらえるようにゆっくりと閉ざされる有様を目に焼き付けたのも、他の誰でもない、俺だった。
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