milk tread 左馬刻の家を訪ねた理鶯は鉢合わせした先客に目を丸くした。今日はゲストがいるとは聞いていたが、まさかそれが猫だったとは。
「…美しい猫だな」
「だろ。オヤジの…ああ、まぁ俺様はオヤジから預かったんだからオヤジんトコの猫でいいか…」
どうやら火貂退紅ゆかりの猫らしい。それは丁重にもてなさなければならない。理鶯は森に住んでいて動物と触れ合う…もとい、動物を相手にすることには慣れているがあまり寄ってこられることはなかった。
「小官がいては落ち着かないのではないか」
「あぁ? そんなタマかよ。堂々としてるわ。よかったなぁ、お前は具材にはなんねーってよ」
そう言って左馬刻は猫を撫でる。白くふわふわとした毛並みの猫はふさふさの尻尾を優雅に立てて我が物顔で歩き、それからソファーに座った理鶯の膝に掴まって乗り上げると胸元に顔を擦り寄せた。
「てめぇ、図々しい上にふてぶてしいな」
ドスのきいた左馬刻の声も無視して猫はにゃーんと高い声で鳴くと理鶯の胸の間に潜り込む。理鶯もしたいようにさせていた。
「眠たいのかも知れないな」
「寝床はこっちだっての。おい、理鶯から離れろや。VIP待遇すぎんだろ」
「左馬刻もこれを枕にしたいか?」
なおも胸にしがみつく猫をそっと支えてやり、理鶯はくすくすと息を漏らして笑った。彼女が動物とじゃれ合っているのを目にするのは左馬刻も初めてだ。絵になるし、優しい眼差しの彼女はとてもかわいい。猫の傍若無人ぶりには思うところがあるが、この表情を引き出したのは褒めてやってもいい。
「俺は抱き枕がいいな」
隣に腰掛けて左馬刻は理鶯の肩を抱き寄せた。そのつもりで来たはずだ。理鶯はこつん、と小さな頭を左馬刻に預けた。
しばらくして猫は理鶯の胸に前足を乗せ、踏むような動作を繰り返した。口を近付けて服を甘噛みしている様子も見える。
「腹が減っているのか?」
理鶯の問いに猫は答えず、ただやわやわと大きく柔らかく弾力のある胸を押していた。
「俺も揉んでいいか」
抱き寄せ、腰に腕を回して左馬刻が小さく囁くと理鶯は不思議そうな顔をした。
「どちらに尋ねたのだ?」
「なんで俺様が猫にお伺い立てんだよ? てめぇの身体に触るのによ」
呆れたように言いながら左馬刻の手は理鶯の服の中を弄っている。
「まだ許可していないぞ」
「許可すんのは決定だろ?」
くつくつと笑い合い、ゆっくりと触れ合う唇。二人の間に挟まれた猫が大きく動いた。
「どうした、下りるのか? ほら、こっち来い」
左馬刻が掠れた声で囁き、そっと猫を床に下ろす。猫は用意されていた寝床で丸くなった。どうやら眠かったようだ。
「で、どうすんだ、理鶯ちゃん?」
鼻先を擦り付けて左馬刻が笑う。ゆっくり這い上がってきた大きな手が理鶯の胸をそっと、けれど力強く掴み上げた。もっと、と唇の動きだけでねだればソファーの上に押し倒された。
終