蕾は胎動せし 守るべきものを、悉く失ってきた。俺に残されたものがあるとすれば、この命だけなのだ。鬼狩りという仕事柄、それさえもいつ失われるか分からなかった。今の俺には、何も無いのと同じだ。生まれてきた意味も、生きていく理由も、もう分からない。
そんな風に、全てを諦めかけた時だ。まるで悪足掻きのように拾い上げたのが、竈門炭治郎という少年である。炭治郎は、屈託のない優しさでもって俺の懐に潜り込んだ。今や、己が命よりも大切なただひとりの相手だった。俺からどんな思いで見られているかも知らずに、俺の隣で笑っている。因果なものだ。俺はまた、失いたくないものを抱えるようになった。
俺にとって、他人を心から愛しいと思うのは、ある意味で合理性に欠けた現象だった。余所事に関心はない。そもそも人付き合いの希薄な身で、好いた惚れたの話を耳にする機会も少なかった。このまま死んでいく他ない、つまらない男を誑かしたのは、後にも先にも炭治郎だけだ。
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