私の師匠はいつも家にいるわけではない。英雄と呼ばれながら、一介の冒険者のように様々な人の依頼を受ける彼は日々忙しく各地を飛び回っている。ただときどき羽を伸ばしたくなるのか、自宅でゆっくりと過ごす日もある。そんな日は彼が食事を作ることもあった。
テーブルに並ぶ暖かな料理に思わず唾を飲み込む。「今日はイシュガルド風だ」と言っていたけど、私はイシュガルドがどんなところなのかよく知らない。とても寒いらしいからあまり行ってみたいとも思わないのだけど、こんなに美味しそうなものがあるなら興味が湧く。……食い意地がはってるみたいで言いたくはないけど。
「……あなたが料理上手ってちょっと意外だわ。本ばっかり読んでて食事なんてどうでも良さそうなのに」
そう言うと彼は目を数度瞬かせ、ふっと口許を緩めて笑った。
「料理は面白いぞ。錬金術のようだ。それに」
「それに?」
「育ち盛りの子供がいるんだ。ろくなものを食わせてないなんて悪評が立ったら私が困る」
分かったらさっさと座って食べなさい。
それきり彼は自分も食事を始めてそれ以上語ろうとはしなかった(食事時に喋らないのはいつものことだけど)。
(それってつまり、私のためよね?)
くすぐったくて落ちつかない。ごまかすように口に運んだスープはやっぱりあたたかい味がした。