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    まろんじ

    主に作業進捗を上げるところ 今は典鬼が多い

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    まろんじ

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    星の声5

    ##宇奈七

    数年経つと、俺は一人で任務をこなすことも多くなった。女だからこそ潜入しやすい場所もあったし、純粋に四人のうち俺の殺し方に向いた任務というのもあったし、他の三人の予定が空いていなかったため、と頼まれた任務もあった。
     変わらず、俺はナイフを握り続けた。刃渡りや材質、長さが変わりこそすれ、手にあるのはずっとナイフだった。ほとんどの時間を、ナイフを握って過ごした。
     「ダガーがよく似合う気がするよ、俺は」。アスプロはよく、俺の手を取って言った。「嬢ちゃんなら、使いこなす分には何でも来いだろうがね。でも、こういう……尖ってきらきらした手には、ダガーが似合う」。
     尖ってきらきらした手、というのがどういう手なのかは、今も俺には分からない。自分の手が美しいとも思わない。ただ、アスプロの手を握るのは、どうしてか心地が良かった。ナイフの代わりに自分の手に収めるのならこの手だ、といつも思っていた。
     俺は十六のとき、片手で奴の手を取り、もう片手の指でその掌に文字を書いた。
     Α−σ−τ−ε−ρ−ι。『アステル』。
     読めたか、と尋ねると奴は頷いたが、やや戸惑った顔をしていた。生まれたとき、私はそう呼ばれていたらしい。そう伝えると、奴は得心のいった顔をした。「それで全部かい?」。俺は、さらに文字を書いた。
     Α−ι−δ−η−ψ−ο−ς。『エディプソス』。
     奴は頷いた。「そうか、嬢ちゃんは最後の名前まで分かるんだな。俺が分かるのは、これだけだ」。痣のついた人差し指が俺の掌をなぞった。
     Ο−ρ−φ−ε−ν−ς。『オルペウス』。
     神秘的な名前だ。俺が言うと、「そうかい」と奴は笑った。「嬢ちゃんの目は星空みたいだからな。よく似合う」。奴は髪をかき上げて、俺の目をじっと見ていた。
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