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    まろんじ

    主に作業進捗を上げるところ 今は典鬼が多い

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    まろんじ

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    星の声13

    ##宇奈七

    ──少し、話し疲れた。
     今日の寝る前、七緒が用意してくれた茶がここにある。これを飲んでもう、休ませてもらおう。七緒が毎晩淹れて、彼女にポット一杯分渡して、残りを俺のマグカップに注いでくれるあのいつもの茶だよ。覚えているか?
     今日はローズマリーか。彼女は、ハーブティーが好きだからな。七緒も、薔薇の香りが好きだと言っていた。
     俺は特別、飲み物や食べ物に好みはない。ないが、そうだな。……何者にも代え難いと、そう思える相手と共にする食事は……自然と、思い出深くなる。
     今日の、七緒に出したケーキもそうだ。俺はコーヒーを飲みながら、食べる七緒を眺めているだけだった。それでも、七緒が久々に笑ったのを見ると、ほっとした。最近の七緒は……七緒は──。生きているかと、あるいは人形なのかと、疑いたくなるほど生気に欠けていたから。
     変に聞こえるかもしれないが、俺はな、七緒。お前が生きている、ということが堪らなく嬉しいのだよ。お前が心臓を動かして、血を巡らせて、呼吸をして、瞬きをして、髪を揺らして、手足を動かして、頭で考えて、心で感じて。お前の命がそうしてここにあることを、俺はいつも心の底から嬉しく思っているのだ。
     お前の命には、「和倉七緒」と名前が付けられている。お前がお前であることを証明する、お前だけがもつものの一つだ。本当は、七緒といつでも呼びかけたい。だが、彼女にはお前をそう呼ぶことを禁じられてしまった。だからせめて、このカセットテープでだけでも、お前の名を口にしたい。それだけで俺は、お前の命がまだ温かく生きていることに安堵できる。
     ──後悔しているのだ。最期まで、奴の名を呼ばなかったことを。奴は俺を、アステルと呼んでくれたのに。オルペウスと、一度だけでも声に出しておくのだった。……ああ、こうして口にするだけでも、何だか……苦しいな。
     だが、普通の人間に、人殺しでない人間になって、そうして奴と夫婦になって、その暮らしの中でオルペウスと呼ぶことはもう考えていない。俺は、人殺しであることを辞めようとすると死んでしまうから。罰として、失いたくないものを失うから。誰かに言われたわけではない。占い師や宗教家が俺の運命を見たなどと言ったわけでもない。ただ、自分でそう思うのだ。その通りになってきたから自分でそう思うのかもしれないし、自分でそう思うからそうなってきたのかもしれない。
     俺がアスプロと腹の子を失ってから、今の今まで生きて来られたことがその証拠と言ってもいい。
     次は、その話をしよう。
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    まろんじ

    DOODLE【エルモリ】ヴィクター・モリアーティ観察日記 ハロウィンの日 教授視点10月31日

     まだこんなものを書いているのですか。
     これで何冊目になるのです? この行為に何の意義があるのですか?
     私の様子を書き留めることがそんなに刺激的なのですか? では、私が私の様子を書き留めれば同様の刺激を得られますか? そのような刺激は決して得たくなどありませんが。
     ともかく、ハロウィンに研究所へ菓子をねだりに来るのはやめろと言ったはずです。名探偵を自称する貴方の記憶力でも忘れる可能性もあるかと思い、こうして貴方の日記とやらに苦情を書き残しておくことにしました。必ず目を通しておくように。さもなくば、私のマキナがこの日記帳を哀れな姿にします。貴方本人を哀れな姿にしないのは最後の慈悲です。
     毎年貴方へのハロウィン対策をしては、それをすり抜けられる身にもなってください。今年は、菓子を与えつつ体の動きを奪おうと、天井を開いて頭上から菓子を大量に降らせるように研究所を改造工事しました。これでしばらくは動けまいと菓子の山から背を向けようとしたら、何かが動くのが見えたのです。
     焦げ茶色の傘が、大きなきのこのようにニョキ、と山から頭を出していました。傘の下から覗いた顔の、満足そ 1144