Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    まろんじ

    主に作業進捗を上げるところ 今は典鬼が多い

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🐓 🐦 🐧 🐣
    POIPOI 574

    まろんじ

    ☆quiet follow

    星の声16

    ##宇奈七

    「てめえ、あのアマの仲間か」
     男は、肩越しに必死で顔をこちらへ向けたが、俺の顔を見た途端に、ひい、と小さく悲鳴を上げた。
     黒髪の前髪を長く伸ばして目元を隠し、見えている部分は傷だらけの顔をした、身長百八十センチの黒ずくめの人間。こんな人間が繁華街にいたら、裏社会の者にしか見えないだろう。それも、かなり血生臭い場所にいるような。
     俺は、男を引きずって路地を歩き、女が行った方向へ放り出した。男は、尻餅を突いた後に慌てて立ち上がり、転げるように走って行った。
     くるりと向きを変え、また細い路地を歩いて目的地のホテルへ向かおうとしたときだった。
     路地の曲がり角から、ひょこ、と金色の髪が覗いた。
    「お強いのですのね、あなた」
     長いまつ毛の下から、琥珀のような瞳が俺を見上げていた。化粧をしていたが、それでなくともはっきりと美しいと分かる顔立ちだった。声は、透き通って甘ったるい、いつまでも聞いていられるようだった。
    「ねえ、少しわたくしとお話をしませんこと?」
     彼女は俺に身を寄せて来た。甘い薔薇の香りがした。
    「……何の話か知らないが、俺には今、急ぎの用事がある。あなたと話している暇はない」
    「あら……でも、お顔に書いていらしてよ。わたくしと少し一緒にいたいって」
     俺は、前髪の下で眉をひそめた。
    「どうして、女の方なのにご自身を『俺』と仰ってるの?」
    「……あなたには……お前には関係のないことだ」
     彼女は、薄桃色の唇をにこ、と曲げて微笑んだ。
    「振られてしまったのなら、仕方がありませんわね。でも、またお会いできるような気がしますわ」
    「この広い繁華街でか?」
     ええ、と彼女は俺に背を向けた。ひらり、と着ていたドレスの透き通った裾が揺れた。
    「私、あなたのことでしたら、どこにいても見つけられるおような気が致しますの。その時はもっと、たくさんお話がしたいわ」
     それじゃあね、と彼女は、こつこつとヒールの音を響かせて路地を歩いて行った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💞❤💫💛👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    まろんじ

    PROGRESS星の声17その次の日のことだ。
     ホテルの部屋に付いていた固定電話が鳴った。受話器を取るとフロントからで、俺に電話が来ているから繋いでもよいか、とのことだった。
     依頼者との連絡にホテルの電話を使う契約はしていない。日本には俺の知る人間もいない。「人違いでは?」と尋ねると、相手はワカモト・カオリという俺の知り合いだと名乗っているという。俺は尚も躊躇っていたが、長い金髪の女性だと聞かされるとすぐに承諾の返事をした。
    「まあ、なんて不機嫌なお声。もしかして、寝起きでいらっしゃった?」
     何の用だ、という俺の言葉に対する返答である。相変わらず甘ったるい声をしていた。
    「ちょっと、困ったことになっていますの。あなた、とってもお強いから、力になってもらえないかと思いまして」
     話を聞くと、またしつこくあの中年の男に追われているらしかった。それを追い返して欲しいというのだ。
     殺しではない仕事は受けないことにしていた。相手が生き残れば、俺の名前や身元が割れる可能性が強まる。殺すのではなく、追い返すだけだというのなら、俺よりも警察などの方が適任だろう。
     そう答えようとしたときだった。
    「それとも……あなたに 813

    まろんじ

    DOODLE【エルモリ】ヴィクター・モリアーティ観察日記 ハロウィンの日 教授視点10月31日

     まだこんなものを書いているのですか。
     これで何冊目になるのです? この行為に何の意義があるのですか?
     私の様子を書き留めることがそんなに刺激的なのですか? では、私が私の様子を書き留めれば同様の刺激を得られますか? そのような刺激は決して得たくなどありませんが。
     ともかく、ハロウィンに研究所へ菓子をねだりに来るのはやめろと言ったはずです。名探偵を自称する貴方の記憶力でも忘れる可能性もあるかと思い、こうして貴方の日記とやらに苦情を書き残しておくことにしました。必ず目を通しておくように。さもなくば、私のマキナがこの日記帳を哀れな姿にします。貴方本人を哀れな姿にしないのは最後の慈悲です。
     毎年貴方へのハロウィン対策をしては、それをすり抜けられる身にもなってください。今年は、菓子を与えつつ体の動きを奪おうと、天井を開いて頭上から菓子を大量に降らせるように研究所を改造工事しました。これでしばらくは動けまいと菓子の山から背を向けようとしたら、何かが動くのが見えたのです。
     焦げ茶色の傘が、大きなきのこのようにニョキ、と山から頭を出していました。傘の下から覗いた顔の、満足そ 1144

    まろんじ

    PROGRESS星の声18──ここまで話してから気付いたけれど……七緒には、彼女の話を聞かせない方がいいのだろうか。
     聞いていて辛くなるようなら、次のトラックまでスキップして欲しい。それが最後のメッセージだ。
     彼女からどんな理不尽な目に遭わされても尚、七緒が彼女を慕っているのは、俺もよく知っている。
    俺のように広い世界を自分の目で見て歩いて触れる日が、お前にも必ずやって来る。俺が言うと、お前は微笑んだのだ。「うん、楽しみにしてる。そのときは、お母さまとクロも一緒に行こうね」。一人では寂しいだとか、どう歩けばいいか分からないだとか、そういった理由だったのかもはしれない。けれど、七緒が当たり前のように彼女を、人生を共にする家族と思っているのを見ると……俺は、罪悪感で胸がいっぱいになる。
    彼女を慕わずにはいられない、というのもあるのだろうな。十になったばかりのお前はまだ、大人の手を必要とする子どもだ。何から何まで世話が必要な赤ん坊ではなくとも、大人からの情というものをお前は注がれなくてはならない。ただ、彼女のそれは時にお前を苦しめている。傍にいることしかしてやれなくて、本当にすまない。
     俺がいなくなった後、お前 708