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    まろんじ

    主に作業進捗を上げるところ 今は典鬼が多い

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    まろんじ

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    星の声22 完結

    ##宇奈七

    トラック6
     彼女の話は、もうほとんど終わったよ。スキップさせてしまったなら、すまない。
     それからの彼女は、七緒が知っている姿とあまり変わらないから、特段話すこともないように思う。俺が彼女の『クロ』になったときから、この建物に住み、この建物に人々を集めていた。変わったのは、そうだな。──俺の仕事のやり方だ。
     これは、二人にはずっと隠していたことだけれど──俺は彼女からの依頼も命令もないまま、たくさんの「信徒」たちを殺すようになった。例えば、彼女の髪を引きちぎった男。彼女の首を絞め上げた男。七緒の頭を殴った男。七緒の腕を捻った男。そうした男にもう「信徒」の資格はないと勝手に断じて、首を絞めたり、頭を殴ったり、ナイフで刺したり、毒を飲ませたり──そうやって、五十人ほどは殺しただろう。
     四騎士にいた頃の俺が罪に問われなかったのは組織の保護下にあったから、フリーランスの人殺しだった頃の俺の場合は依頼者が警察さえ抑えられるような力の持ち主だったからだ。今の俺は、死体や被害者の身元の特徴からこの教団に繋がればすぐにでも罪に問われかねないのだ。彼女に警察を抑える力があるわけではないし、何より俺が彼女に頼み込んで専属の人殺しとなり、彼女に無断で「信徒」たちを殺しているのだから。時間がないと繰り返しているのは、こういうことだよ。
     それにしても──こんなことは、彼女と、それから七緒がいなければ一生しなかったろうな。誰かを……何かな。そう……守りたい、だからそれを脅かす者を殺す。そんなことは、お前たちに出会わなければしなかったろう。命令や依頼の通りに淡々と人を殺す人生が続いていたはずだ。
     後悔はしていない。彼女が彼女でいること、七緒が七緒でいること。それも俺が生きている意味に含まれているように、今は思うからだ。夫と子どもへの贖罪のためだけの命では、もうないから。人殺しとしてだけでなく、人を守るためにも生きられるのなら、俺をかばった男に生かされた命の使い道として、きっとこれ以上のものはない。
     七緒──このテープが、未来の七緒に届いていると信じて、声を吹き込んでいるが──七緒。お前は、今のお前は「七緒」でいられているか? そうできる人間、そうさせてくれる人間が傍にいるか?
     お前は生きることをやめてはならないし、感じることもやめてはならない。笑うことも、悲しむことも、怒ることもやめてはならない。それらを、最終的には自分のためにしなくてはならない──誰かのための笑顔や義憤であったとしても。
     お前が為す全てのことは、お前がお前であるためのものでなければならない。そうすればお前は決して、絶対に、何があっても孤独になることはない。俺が傍にいなくとも。
     俺がこうも固く七緒を信じているのは、七緒が七緒である姿を見て来たからだ。怖がりで、泣き虫で、寂しがり屋で、怒ることが苦手で──けれど、純粋で優しくて。人を愛し、愛されることのできる人間だ。友愛でも、親愛でも、恋愛でも、性愛でも、家族愛でも。お前の人生には愛が待っていると、見ていると確信できるのだ。たとえ、俺がいなくとも。
     俺なりに、誰かを大切に思うこと、愛することを教えてきたつもりだ。俺ではない誰かをそんなふうに思うときが来ること、あるいはこれを聞いているとき、既にそういった存在が傍にいることを願っている。……心の底から。
     
    ──日が、昇って来たな。そろそろ、七緒を起こしに行こう。
    晴れた朝は、一緒にしばらく朝焼けを眺めるのだ。覚えているか?
    七緒が俺の目を「お星さまみたい」と言ったから、俺はお前の目を「朝日のようだ」と言った。一日の始まりを示す、明るい光のような目だ。
    きっと七緒はその瞳で誰かに、まるで出会った日から人生が始まったかのような思いを抱かせるのだろう。お前は、誰のどんな瞳を見て、どんな思いを抱くのかな。どんな声を聞いて、どんな手に触れるのかな。
    お前の受け取るもの全てが、愛と幸福に溢れていることを、願っているよ。
    ──では、またな。
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    まろんじ

    PROGRESS星の声12目が覚めた後、医師や看護師たち、コーキノとマヴロから聞かされた話を統合すると、こうだ。
     俺は、アスプロが死んだと聞いた途端、何も言わずにナイフを取り出した。最初は胸を、そして腹や脚や、顔や首、とにかく体中をナイフで刺して傷つけたという。
     途中から何事かの言葉を泣き叫んでいたが、コーキノとマヴロは俺を抑え込むのに必死で、よく聞き取れなかったと言っていた。「オル──何とか、と言っていたが」とコーキノが何か聞きたげにこちらを見ていたが、俺はただ俯いていた。
     この自殺未遂により、俺は視野の半分ほどを失っている。見えている部分にも負担がかかり、何十年か後には見えない部分の方が多くなる可能性が高い。
     それから──。
    「子宮の損傷が激しく、手術を行いましたが……」
     腹の子は死んだ。いや、俺が殺した。
     俺は黙って話を聞き、それから感謝の言葉を述べた。医師たちが、俺の病室を出て行った。
     ──どうして、生き残ってしまったのかな。
     そう思わないではいられなかった。
     自分だけ──一人だけ生き残って、何の意味があるというのだろう。四騎士はあの任務を最後に解散が決まっていた。俺の、本来ならば俺と 1375