買い出しと称した気分転換でコンビニにやってきた神在月は、数分うろうろしながらいつもと変わり映えしない品をかごに入れ、レジに向かった。アイスケースを通り過ぎながら、何気なく横目でちらりと見る。ある商品が目に入り、この後に来る予定の友人のことを思い出して足を止めると、数秒の逡巡の後、ケースの蓋を開けた。
やってきた友人は手土産にゼリー飲料を買ってきてくれた。冷蔵庫にいれておくと扉を開けて、ヨーグルトがかぶらずによかったと呟いていた。行動パターンはすっかり読まれている。
「パピコあるの、半分こしない?」
「お、気が利く」
声をかければ嬉しそうな賛同の意思が返ってきた。
立ち位置を交代して神在月が冷凍庫からアイスを取り出すと、三木は当然のように「ん」と手を出した。強奪ではない。開けてくれるという意味だ。
それには渡さず「ちょっと待ってね」と袋から取り出すと、神在月は二本一組になったアイスを持ってねじるようにひっぱった。つなぎ目がきれいに分かれる。三木の「お」という声が聞こえた。
はい、と片方渡せば、サンキューと受け取りながら興味津々で神在月が持ってる方のパピコを見ている。
期待に応えるように、神在月はふっふっふっと怪しく笑いながらリングになってる部分に指をかける。
「せいやっ」
気合いと共にリングをひねり上げれば、見事に先端近くが切れて容器に口が開いた。
「おおー」
感嘆の声を上げながら、こちらはあっさりと三木も先端を捻って切って開ける。
非常に軽くではあったがもらった賞賛に、神在月は照れ笑いした。
「お前、昔はこれ開けられなかったんじゃないか?」
パピコをくわえながら三木が思い出を振り返る。
日差しの高い学校からの帰り道。二本はお腹壊すからと、三木に半分もらってもらったパピコ。
片方を渡すのに分けようとしたら、全然切れなくて三木にやってもらった。
そして食べ口の部分もどうしても切れず、挙げ句妙に伸ばしてしまった。これには三木もやりづらそうで、「こっち、まだ食ってないから」と自分が開けた方を神在月に渡すと、神在月が失敗した方を噛み付いてちぎるようにして開けた。
ありがとうと礼をのべながら、開けてもらえたなら、
そっちでも良かったなと考えたことは、本人に伝えたことはない。
「これは企業努力なのですよ、君」
「シンジの力でも開けられる容器の改良が?」
「そう! 俺に開けられるならお子様にも安心!」
「はは、確かに」
「しかも、シャーベットがちょっと軟らかくなって吸いやすい」
「マジか。…言われればそんな気もする」
容器を握り潰すように中身を押し出して、三木は感心したように呟いた。
そして
「じゃあもうシンジ君は一人でパピコ食べられるミキねー」
「えっ、三ッ木ーいてくれないと、お腹壊しちゃう」
実は少し前にも神在月はパピコを買った。ささやかな豪遊というか無茶をしたくなり、一人で食べるつもりで買ったのだ。容器が開けやすくなってるのは、その時に気付いた。そして食べやすくなっていることで、勢いでいっぺんに食べて、お腹を壊した。
間髪入れずに返した神在月に、三木は瞬きをして、
「ははっ、なんだそれ」
目を伏せて笑った顔は、からかうものではなく嬉しげだった。
さてと、と二人とも食べ終えたところで、三木が肩回りをストレッチする。
「コンビニ行く余裕があったんだ。今日の作業は済んでるんだよな?」
「ギックーン」
「シンジ?」
「いやっ、ゼロじゃないです、三ッ木ーにやってもらう分はあります!」
「…すぐ追いつくから、きりきり描けよ」
「はいぃ」
神在月は悲鳴のような返事をしながら、内心では三木の優しさを感じる。
持ってもらうのは、半分でいい。
でもゼロにはしない。
昔と変わらず、この先も。
机について、へにゃっとした笑顔を向ければ、照れ隠しの無表情はそっぽを向いた。