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    真央りんか

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    真央りんか

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    神ミキ。できてる。オータムでパーティーがある日。世話焼き三ッ木ー。

     午前中のベッドの中で、神在月は呻いていた。
     具合が悪いわけではない。いっそ具合が悪ければいい。いや、それはそれでしんどいから嫌だ。
     そんなとりとめのない思考をぐるぐる回している本日は、世話になっているオータム書店のパーティの予定が入っていた。神在月は関係してないが何やらの賞の授賞式で、こういう機会に近いところから畑違いまで、定義の広い同業者と顔を合わせておくのを勧められている。神在月も自分から声をかけるのはそうそうできないが、話をするのは嫌いではないので、できるだけ顔を出すようにしていた。
     だから今日は参加と伝えてある。伝えてあるのだが、行きたくない。行かなきゃいけないし、行ったら大丈夫なのはわかっているけれど、こういう予定は毎回直前が行きたくない。今が行きたくなさピークだ。なんなら行きたくない音頭を歌ってしまう。
     準備のタイムリミットまでゴロゴロしているつもりのところに、ドアホンが鳴った。宅配だったらどうしよう、まだ行動したくない、と迷っていたら、鍵があく音がした。
     合鍵。三木だ。
     親友はすたすた短い廊下をやってきて、神在月がベッドで枕を抱きしめているのを見つけると、仕方ないという顔をした。
    「おはようミッキー」
    「おはよう、お前今日の予定分かってる?」
    「え…オータムのパーティ…」
     何か約束してたかと焦ったが、それで正解だったらしい。「わかってるならいい」とそれ以上は神在月の状態にあれこれ言わず、行動を開始した。
     カーテンと窓を開けられて部屋に風が通ると、神在月の気分も心なしか立ち直った気がする。三木は洗面所の方へ消えていった。
     それからしばらく戻ってこない。トイレかな、長いななどと思っていたら、ときどき物音がする。寝過ごす心配がなくなったせいか、うとうとしかけた頃、水音が聞こえた気がした。
     三木が近くに来た気配に目を開けると、別に神在月の元へ来てくれたわけではなく、室内を簡単に片付けてくれている。動き回る三木の捲られた袖口と裾に目が行く。色白のふくらはぎから足首を眺めていても、気付かれる様子はない。掃除機を出してきて隅からかけ始めるのを見ていたら、神在月の心にやましいものが湧く。三木は親友だけどそれだけじゃない。大事な大事な恋人だ。
     三木のやってることは、ハウスキーピングの範疇だ。そうなのだが。それを役割として考えたらダメなのだが
    ——……奥さんみたい
     自分の発想に、だらしなく頬が緩んでしまう。抱いた枕で顔をごまかしながら、にへにへごろごろしているうちに、三木はあっという間に掃除機かけを終わらせた。片付けにいったのか姿が消え、再び戻ってくると、今度は神在月の前に立った。
    「風呂そろそろ溜まるから、入ってこいよ」
    「え、お風呂……」
     水音がしたように思ったのは、風呂の湯を溜めてくれていたらしい。出かける前にシャワーは浴びようと思っていたが、湯に浸かるのは…
    「疲れちゃうかも」
    「と思って、ぬるめにしてあるし、すぐあがれ」
     神在月の体力などすっかり把握されている。ほら、と手を引っ張ってもらって起き上がり、のそのそと風呂場に向かった。
     服を脱いで、髪を結んで、眼鏡はかけたままで、風呂場に入ると足裏に冷たい濡れた感触。それ自体は気持ち良いものではないのだが、神在月はすぐに気付いた。
     先程姿が見えなくなった時間は、風呂掃除をしてくれていたのだ。腹の辺りに愛しさをきゅーんと感じて、テンションがあがって勢いよく顔と体を洗う。浴槽に体をひたして、息をついたところで風呂場の扉が開いて、三木が顔を出した。
    「これ、ヒゲに当てておいて」
     ポンと投げられた蒸しタオルを見事に顔でキャッチしてしまい、熱さでバシャバシャ暴れたが、どうにか落とさずに済んだ。手の上で調整したそれをほこほこと顔の下半分に乗せていると、また扉が開き、洗面器にいろいろ乗せて、服を着たままの三木が入ってきた。いや、服を着ているといっても、ズボンをはいていない。
    「え、な、なに、」
     慌てて狭い浴槽で後退ろうとすると、
    「あああ、またこぼれるだろうが」
    「だってパンツ」
    「…ズボンが濡れる方が面倒なんだよ」
     浴槽のふちに片足を曲げて乗せる形で隅に腰掛け、こっちに来いと招いてくる。神在月は誘導されるがまま、脚の間に入る形で浴槽の角に背を預けた。蒸しタオルは曲げた三木の膝に、眼鏡は三木の胸元に、それぞれ取られてひっかけられる。「これ持って」と言われて鏡を渡され、「そこ」と言われた位置で固定した。
     後ろから顎をすくうように、ぬるぬるとシェービングローションを塗られる。この家にないはずのL字のカミソリが出てきた。それだけでなんかプロっぽいと思ってしまう。上から覗き込まれて、やりにくいかなと目を閉じた。
     しょりしょりと剃られていく音と感触。ときどき顔の向きを動かされ、皮膚をあちこちひっぱられ、鼻の下も、鏡越しに見てるだろう顎下も丁寧に剃られていく。顔を支える手が気持ちいい。
     一通り全体触られたと思ったら、剃り残しを見ているのか、何ヶ所かチョンチョンと飛び飛びに剃られていく。それも済んだようで、背後で体が動くのを感じると、先程と別のタオルを顔に当てられた。
     緩めに絞った濡れタオルで、遠慮のない感じで顔を拭かれていく。更にもう一枚新しいタオルで拭かれて、さっぱりしたところに、こんどは保湿用のローションをペタペタと叩きこまれた。
     手が止まって、終わりかなと感じた瞬間。額の生えぎわにチュとした感触。
     ばちっと目を開けると、素知らぬ顔が遠ざかる。眼鏡を返され、かけ直している間に三木は立ち上がっていた。
     持ち込んだものと一緒にそのまま出ていった後も、神在月はしばらく今の出来事を噛みしめていたが、長くつかりすぎるなよと声をかけられた通り、長居はせずにいそいそとあがったのだった。

     タオル一枚巻いて出ると、三木はもうズボンを穿いていた。パンツは濡れていたはずだが。
    「ノーパン?」
    「…履きかえたんだよ」
     パンツと靴下程度だが、三木の着替えは少しだけこの家に置いてある。なんだ、という反応は叱られそうで、神在月は無言でテーブルの上に視線を移した。
     ヨーグルトにドライフルーツをいれたものが用意されていた。
    「向こうについて、すぐに何か食えるわけでもないだろ。朝もまだなんだし、腹に入れていけ」
    「ありがとう、いただきます」
     その前にパンツはけと言われて、あわあわしながらモラルをまとった。
     改めてテーブルについて口に入れると、ドライフルーツは水分を含んでプルプル食感になっていた。直前ではなく早い段階で用意してくれていたのだろう。
     後ろに立った三木に、風呂のために高めに結っていた髪をさわさわ触られて動揺する。サイドの髪もさらっと指ですくわれた。
    「案外濡れなかったな」
     ドギマギして何も返せなかったが、三木は気にしていないようだ。
     自分で用意した量に、
    「足りるのか? もう少し食べていった方がいいと思うけど」
    と提案されたが、神在月が首を横にふるふるすると、わかったよというように頭をポンポンされた。

     パンイチのまま食器を洗って歯を磨いて戻ると、ベッドの上に着替えが一揃い用意されていた。
     しかし着替える前に、座れと指示される。
     結った髪を一度ほどかれ、とかれて結い直される。いつもと同じひとつにまとめただけだが、なにか違う。きっちりしたところから、ゴムを引いて少し緩めてくれた。髪も少し引っ張り出される。サイドの髪は片側だけヘアピン何本も使って留められた。おまけに何か所か何か塗られたが、神在月にはわからない。
     いったいどうなっているのか、三木は神在月の顔を見て、複雑そうな表情だ。とても不安だ。
     時計を見た三木に、もういいんじゃないかと言われ、用意してもらった服を身につける。至れり尽くせりだ。普段は着てないジャケットとスラックスだけて、もう落ち着かない。
     着替え終わってそわそわと三木に見てもらうと、渋い顔で「今回だけだな…」と不穏なことを言うので、どこかおかしい?とパタパタ身の回りを確認してしまう。なにもおかしくないと言われ、自分で姿見を見てみれば、髪をあげられていつもよりは見えている顔と着なれない服を着た以外は、神在月のままだった。無精ひげがないのは数日ぶりだ。おかしいかおかしくないかで言うと、見慣れなさすぎておかしいが、それはどうしようもない。
    「忘れ物すんなよ。そこまでは面倒みないぞ」
     と言われたが、もう既に王侯貴族のように世話をされている。財布とスマホがあればどうにかなるが、他にもいくつかばさばさとトートバッグに突っ込んだ。
     これで神在月はもう出られるが、三木はこのためだけに来てくれたのだろうか。
    「ミッキーはもう帰る? 一緒に出る?」
    「いや、洗濯もしたいし、あと風呂借りていいか」
    「うん…!」
     湧いた感情をもてあましてブリッジができそうなほど反りかえると
    「…外でそれやるなよ」
     と、つれない反応で済ませられるが、日常なので気にしない。
     体を前に戻して、
    「いってきます」
     三木の頬にチュッと音を立てると、それまでスンとしていた三木はぶわっと一気に赤くなった。
    「…ミッキー…!」
    「いいから早くいけって」
     ハグを避けられ、後ろ髪引かれるのを追い立てられる。というかもはや追い出された神在月の後ろで、玄関の扉が閉まった。
     でへ、とだらしない笑みが出てしまい、ここは家の外だと意識して、顔を覆ってどうにか戻す。

     いつの間にか、行きたくないモードは鳴りを潜めていた。
     別の意味で行きたくない気持ちは湧いているけれど、分類するなら上機嫌だ。
     猫背は変わらなくとも、こころなしか腰はのぴ、神在月シンジは浮かれた様子で駅へと向かった。

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    ちょびを

    DONE祓本パロ。悟が収録中に日ごろの傑への不満を訴える話。前後の話2本ほどまとめて支部にのっけます。
    ちどりさんの某番組ネタとか諸々参考にしてます
    来週もまた見てくださいね! カチンコが鳴り、スタジオに心地よい緊張が広がる。
     女性アナウンサーが透きとおった声で口火を切った。
    「さぁて始まりました、『これだけ言わせて!』今週はゲストに俳優の七海健人さん、灰原雄さん、そして女優の家入硝子さんをお迎えしてお送りします」
     セット外にいるアシスタントがタオルを振り、観覧席から拍手と黄色い悲鳴があがった。順調な滑り出しにアナウンサーは小さくうなずいた。横一列に並んだゲスト席を向くとわざとらしく目を見開き、上ずった声を出す。
    「ってあれ、五条さん? なぜゲスト席に座っているんです?」
    「どーも」
     軽快に手を振る五条悟と私、夏油傑のお笑いコンビ祓ったれ本舗。
     2人がメインMCを務める冠番組『これだけ言わせて!』は、ゲストが持ち込んだ提言を面白おかしくイジり、番組内で叶える構成になっている。モテないと悩んでいる先輩芸人がいれば大改造に取り組み、いっぱい食べられるようになりたい! と言うゲストがいれば、私と悟も1週間のフードファイトに付き合ってきた。
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