絵名は愛に飢えている。
自分を認めてくれて、ヒビ割れた器に愛を注いでくれる相手を常に求めていたから、こいつ大人になってから大丈夫なんだろうかと何となく思ってはいた。
大学生になってからは彼氏を取っ替え引っ替えしているようで、あぁやっぱりなと思う反面、何だか裏切られなような気分だったりする。
愛を求めているのに、彼氏と長続きしないのは多分、絵名の傲慢さに付いていけないから。
あいつは昔から我儘で横暴で、ヒステリックで面倒な女だから、そりゃあ嫌になるよなとあの怪獣を相手した歴が長いオレは納得する。
それでも彼氏が途切れないのは絵名の見た目が良いからだろう。見た目が良いから、身体を楽しむだけ楽しんで、後はポイ。そういう奴らがハエのように寄ってくるのだ。
都合のいい甘言ばかり囁く男と、そんな下半身と脳が直結してるような奴にホイホイと乗る馬鹿な姉。どうせ今日もまた振られてるだろうなと考えると、なんか。
「殺してぇな」
あ、なんか今考えちゃいけないこと考えた気がする。
オレも成人し、飲み会とかに参加していると、多分そういうこと目当てなんだろうなっていう女が擦り寄ってくることがある。酔ってもないのに酔ったとかぬかすケバい女。一夜の関係だけを求めていたり、所謂セフレ目当ての。
告白だってされたことはあるし、彼女を作ろうと思えば全然作れるが。
でもなんか、オレこいつ相手に勃つのか?とか。勃ったとしても途中で萎えそうとか考えてしまうから結局誰も相手にしないのだ。
擦り寄ってくる女を無視し、お開きとなった飲み会から帰るため店を出る。すると少し離れたところで聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえた。あいつが近くにいるらしい。
また別れたのか。あーあ、可哀想に。
なんて陳腐な感想を浮かべながら、なんとなく声のしたほうに向かう。
どうせ帰る場所一緒だし。今だにオレを諦めない女がまとわりついて邪魔だったし。
絵名の近くに行きあいつを見れば、案の定別れた直後らしい姿が見えた。
見た目は相変わらず着飾ったままで、釣り上がった眉で強気な表情だけど、心がボロボロな愚かな姉。
そうやってボロボロになるのなら。
傷付いても愛を求めるのなら。
別にオレでもいいのではないか。オレは20年以上も傍にいるのに。
「絵名」
呼びかければ、ハッとして此方を見る絵名。
まさかここにいるとは思わなかったのだろう、戸惑いながらオレを凝視してるその目は少し潤んでいるように見える。
「…彰人?」
「帰るぞ」
一気に表情が抜け落ちた絵名は、少し黙ってから小さく頷いて腕を組んでくる。
今は弟でもいいから愛が欲しい。そういう最低な考えで、弱っている時ばかり都合良くオレを使うんだこいつは。
「…彰人は飲み会?」
「あぁ」
「…あんたの後ろにいた女の子はいいの?」
「興味ないし名前も覚えてない」
「ふぅん」
なぁ絵名。
こんな碌でもないクソ女とずっと傍にいてやる男なんて、後にも先にもオレくらいしかいないんじゃないか。
なぁ絵名。
オレからの愛はいらないのか。