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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    犬夜叉と弥勒と殺生丸

    ##犬夜叉

    *


    「ところで……下世話なことをお聞きしますが」
    「お前が下世話なのはいつものことだろうよう、弥勒」
    「いえいえ。私はいつも清らかな法師でありますので。……して、りんとはどこまで……済まされたのかと」
    「げ」
    「……」
    「おい弥勒。おれ帰っていいか?」
    「いいえ帰しませんよ犬夜叉。男として気になって仕方なかったのですが……私一人では些か心細い。なので、お前も道連れです」
    「なんだよその『なので』ってよ!」
    「……」
     当の殺生丸は無言である。
     鋭い目つきのまま、瞬き一つすることなく。眉を釣り上げることもなく。ただただ無言で家の中央でちりちりと音を立てる炎を見つめているのみ。その音のない時間が恐ろしい。だからこそ弥勒はこうして弟たる犬夜叉を巻き込んだのだ。
     だって、気になりません?
     なんて完全に『こちら側』に引き込みながら。
    「私と珊瑚はこうして夫婦(めおと)となった訳で……犬夜叉とかごめさまも見ての通り。と来れば、後は決まっているでしょう」
    「決まってねぇ。帰るぞ!」
    「帰るな! かごめさまにお前も下世話な話に混じっていたと言い付けるぞ!」
    「混じってねぇ!」
    「……帰る」
    「だぁ、駄目ですって。ほら、りんも言っておったでしょう? 畑仕事が終わったら遊んでほしいと」
    「だからってよぉ、野郎三人でまだ陽も落ちてないうちにこんな話すんのもおかしいだろ」
    「まぁ、そうとも言います」
     殺生丸は目付役である。
     ふらりといつものように村に立ち寄ったのが運の尽き。瘴気にやられて療養中だという人間と今宵は朔だから大人しくしていろという半妖の見張りを命じられたのだ。常ならばそんな人間の言葉など無視する殺生丸であるが、りんに「待っててね殺生丸さま!」なんて可愛らしい声で頼まれては断る術はなく。
     しかしながら完全なる妖怪は知らなかった。
     この法師が邪念に満ちていたことを。
    「そもそも弥勒。てめぇ一応病人だから寝とけよ」
    「寝てるのにも限度があるでしょう。幸い楓さまの薬湯で随分と楽になりましたし……殺生丸が大人しく屋内にいるほうが珍しいのだから、ね?」
    「ね? じゃねぇよ。なぁんでおれが兄貴の下世話な話聞かなきゃならねぇんだ」
    「兄弟だからこそ気になりませんか?」
    「ならねぇ。知りたくもねぇ」
    「……貴様らこのまま死にたいか」
    「ほら見ろ弥勒! これ以上抜かすとこの馬鹿、家ごと爆砕牙でぶっ飛ばすぞ」
    「確かにそれはいただけませんねぇ。数百年も生きている大妖怪の息子とあらば、人間のおなごなどとうに手篭めにしていてもおかしくは……ああほら、刀を抜きなさるな! 場所をわきまえなさい場所を!」
    「貴様は立場をわきまえろ!」
    「ほーら怒っちまった」
    「犬夜叉貴様もだ!」
    「おれもかよ!」
     そこに直れ、今すぐに。
     例えりんの言葉とはいえこれ以上は我慢できない。殺生丸の堪忍袋の尾がぷつりと切れ、犬夜叉が言った通り彼は容赦無く狭い室内であろうとも牙を抜く。
     腕を振り上げ、満ちるは禍々しい犬の妖気。
     間違いなく、殺られる。
     弥勒と犬夜叉が死を覚悟し情けなくお互いの肩を抱き合い身をすくめたところで──救いはやってきた。

    「あ、殺生丸さま! ただいま帰りました、りん!」

     鈴の音がやってくる。
    「……りん」
    「えへへ。いつもはりんが殺生丸さまをお出迎えするから、今日は逆だね」
    「助かった、のか……?」
    「馬鹿。声を出すんじゃありません。このまま私の家に……」
    「犬夜叉さま、弥勒さま。どこか行かれるのですか?」
     そして救世主は時として残酷なことも口にする。
     逃げ出そうとした人間と半妖に殺生丸がやったのは、ごみを見るよりも冷たく、奈落を見下すよりも蔑んだ視線。この世に存在する万物よりも汚らわしいとでも言いたげな目だ。
    「……りん」
    「はい?」
    「殺生丸どのはりんと遊びたいそうですよ。お前の帰りを大層待ち望んでいましたから……ほら、犬夜叉行くぞ!」
    「お、おう! だとよりん! 兄貴を頼むな!」
    「貴様に兄と言われる筋合いはない!」
     怒るのは、そこ。
     逃げ去るは二人の男。「りんも遊びたいです!」と突撃してくるは小娘一人。血走った目にむき出しの牙。
     りんがいなければ妖怪化した上で食い殺されていたに違いないという確信と、決してあの男は下世話なことを聞いてはならぬと戒めを胸に、突進してきた小娘を抱き上げる妖怪を一人残し弥勒は犬夜叉の袖を引き夕日の村へと逃げ出した。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429