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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    翡翠とせつな

    ##半妖の夜叉姫

    *


    「あぁもう、何を怒っているんだ!」
    「構うなと言っているだろう!」
    「だから、それがなぜだと聞いているんだ、せつな!」
     かしましい声があぜ道に響き渡り、ずんずんと大股で歩くせつなを追って小さな化け猫を抱えた翡翠が重たい飛来骨を背負って走る。なぁ、話を聞け、いいから、とにかく。そう言ったって眼前を進む年下の少女は聞く耳を持ってくれそうにはない。
     しかし呼び止めようとする側の翡翠もまた、伝えたいことはたくさんあるのに伝えるべき言葉はなにも浮かばない。
     けれどここで彼女を見送ってしまってはいけないと青年はもう一度「せつな!」と大きな声で名を呼んだ。
    「……」
     そして、娘は立ち止まる。
    「叔父上の話を聞いていたろう。お前が半妖だからといって……」
    「……」
    「あぁいや、そうじゃない。叔父上は関係なくて……その、俺はお前が半妖だとは知らなかった。腕っ節の強い女子(おなご)だとばかり思っていた」
     しどろもどろに目を泳がせながら翡翠は言葉を選んではそうじゃない、違う、と一人芝居を繰り返す。
     せつなはその姿に呆れてため息をつき、
    「……それがなんだと言う」
     と言い放てば、目の前の青年は居直るように一度口を閉じてからゆっくりと告げた。
    「俺は叔父上のように聡くはない」
    「だから?」
    「せつなのこと、何も知らなかった。……だが、そのくらいしか俺たちは違わないじゃないか」
    「……何の話をしているんだ」
    「だから!」
     お前が! 半妖だからって! だからなんだってんだ!
     彼は近づくな、距離を取れとばかりに睨みつけていたせつなの視線と己のそれを絡めたまま一歩、また一歩と彼女に近づいた。
    「翡翠、お前」
    「別に半妖だからって……俺は、お前の親のことの仔細は知らないが……誰の娘であったって変わらないだろう。せつなはせつなだ、退治屋の仲間だ、家族だ」
    「家族……」
    「もっと構わせてくれ」
     直球な物言いは強烈な瞳と共に。
     しかしせつなも負けじと視線を逸らすことなく言い返す。彼には彼の言い分があるのと同じ、せつなにもまた彼女自身が胸に抱いている強い感情がある。半妖である、という事実を嫌という程に味わうようになった近頃から徐々に膨らんできた大きな想いの蕾が。
     つとめて冷静に彼女は唇を開く。
    「……私は半妖だぞ。翡翠だけじゃない、お頭よりもずっとずっと永く生きるんだ。流れる時の速さが違う」
    「だから、それがなんだって言うんだ。雲母だって妖怪だぞ。俺や叔父上が生まれるよりもうんと昔から退治屋と一緒にいてくれる仲間じゃないか」
    「だが、」
    「だから、それが気に入らないんだ!」
     何度も繰り返される大声に業を煮やしたのか、翡翠の腕に大人しく抱かれていた雲母がみゅう、と文句を垂らすかのように小さく鳴いた。けれど翡翠は気づいた様子もなく、大きな目を更に見開いてびっくりする雲母を抱く腕に力を込めた。
     けれどせつなは動かない。
    「ならお前は、老いたお頭や仲間たちが……時に呑まれ死んでいく姿を私にずっと見ていろと。そう言うのか?」
    「!」
     半妖と言えど、数百の年月は生きるであろう。
     父たる妖怪・殺生丸はその身に西国の大妖怪の血を流す者。なればその娘たるせつなととわもまた、血は薄れども人間どもに恐れ戦かれてきた強者の妖力を受け継いでいるのだ。当然彼女らの天寿は人間のそれとは比べ物にならぬほどに永い。
     五十の年月も過ぎれば今せつなを取り巻く人間たちの多くは年老い墓の下に埋まり、そうでなくとも容貌は森の樹々が如く皺が刻まれ、嫌が応にでも仲間たちが持つ時の流れに置き去りにされたことを思い知るだろう。
    「……お前のそれは傲慢だ、せつな」
    「……傲慢で何が悪い」
     翡翠の叫びはいつかせつなを老いて逝く者の勝手な道理だ。
     そしてせつなの叫びは別れを恐る弱者の道理。
    「俺たちは……そんなもののせいで、分かり合えなくなっちゃうのかよ」
     人間か妖怪か、半妖か。
     そんな些細な誰かの決めた線引きで区切られるほど弱かったのか? と聞いても少女の答えはなく。
    「私はお前を置いて行くぞ」
    「そしたら何度でも追いつく。今みたいに」
     今度は同意するかのような雲母の甘い鳴き声。
     本当に置いて行く側はきっと人間である翡翠のほうだ。けれど彼は愚直なまでに純粋な瞳でせつなを見つめ──そんな世迷言を口にする。なれば今は、まだ。
    「……一度口にしたからは……その言葉、反故したら許さぬぞ 翡翠」
    「望むところだ、せつな」
     せつなの言葉は己への跳ね返し。
     そんな半妖の少女のことなど知らぬまま、年上でありながら幼さの残る男はにっかりと笑ってみせた。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429