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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    弥勒と翡翠

    ##半妖の夜叉姫

    *


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲間がせがめば仕方ないなぁ、と言いながら彼女は菓子を出し、うどんを出し、らあめん、と言ったか。多くの祖国のものを出してはくれたし、彼女が里に帰るたびに「みんなが食べたいと思って」と言いながら鞄を更にぱんぱんに膨らまして戻ってきてくれたものだった。
     故に、仔細は知らぬがきっとこの菓子も。
    「父上?」
     戻らぬ過去に想いを馳せていた弥勒は翡翠の声ではっと我に返る。
    「あぁ、すみません。少し昔を思い出していました。……とわに伝えておいてください。貴重な菓子、ありがたくいただきますと」
    「これ、そんなに大事なものだったのか……」
    「里に戻ることができればいくらでも買えるのだとは聞いたことがありますが、武蔵国じゅう探しても買えぬ代物ですからね」
    「そうだったのか。じゃあ有り難く食べないと」
    「えぇ、えぇ。……にしても翡翠、随分とさまになってきましたね」
    「えっ」
    「飛来骨の扱いにもかなり慣れたようですし、私も鼻が高いです。あんなに泣いてばかりだったのに」
     最初こそこの大きな骨の塊に苦労していたようだが、先ほど見た所ではかなり使いこなせるようになったようであった。
     あんなにも泣き虫で眠るかぐずるかばかりだった赤子も今ではいっちょまえの退治屋ときた。この俗世から離れて二年と少しの時間が長かったと感じたことはあまりないが、二年も十余年も変わりはない。そうとばかり思っていた、はずだが。
    「一体いつの話をしてるんだよ、父上」
    「さぁ、いつでしょうねぇ。歳をとると、時間の流れも早くなって仕方がないので」
     サク、サク。
     牛の乳から作ったのだという味の菓子は軽やかに舌の上で小躍りし、少し歯に力を込めただけで砕けて消えていく。
     十と数年。
     赤子が立派な退治屋となり、飛来骨を容易く振り回せるようになる時を経ても尚変わらぬ異国の菓子の味に舌鼓を打ちながら、弥勒は「いやぁ、本当に強くなりましたねぇ」と少しばかり恥ずかしそうに顔を赤らめた息子の頭をぽんぽんと撫でてやった。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429