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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    りんとせつな(妄想)

    ##半妖の夜叉姫

    *



    「せつなの髪、殺生丸さまそっくりだね」
    「私の……?」
     うん、そう。
     りんは嬉しそうに自分よりもすっかり背の高くなった娘の黒髪を櫛で梳いた。美しい細工が施された櫛も殺生丸がかつてりんに持ってきたものだ。こういった類の価値をりんは知らないが、とてつもなく上等だ、という話だけは聞いている。けれどりんの髪の毛は何をしてもごわごわと櫛を弾くし、放っておけばすぐに広がり散らかってしまう。
    「見て、こんなに綺麗」
     白い手が黒い髪束をとり、せつなの眼前へとそれを運ぶ。
     背に流れ落ちる一房の赤を抱いた黒髪はされるがままに櫛を受け入れ、するりするりと落ちていく。
     それなりの手入れはしているがそこまでの手入れはしていない、と言うせつなの言葉は真実だろう。産まれながらに彼女の髪は殺生丸のそれをしっかりと受け継いでおり、風がなびこうが雨にうたれようが美しいままだ。
    「自分では……分からない」
    「ほんと? じゃあ今度殺生丸さまの髪、触ってみて」
    「触らせてくれる、のか……?」
    「大丈夫。もし駄目って言われたらりんに任せて!」
     父娘関係は今の所最悪だ。
     どれほど高尚な理由があろうとも、どれほど理屈めいた理由を並べられたとしても、どれほど『その選択』が多くを救う道であったとしても、事実が変わることはない。未だに面と向かって実の父親と会話もできないせつなにとってはあまりに難易度が高い。そんな娘の悲鳴に近い心中を察してか、りんはくすくすと笑った。
    「なにを……」
    「ううん、そっくりだなって」
    「え?」
    「殺生丸さまとそっくり。髪だけじゃなくて……そうやって、何か悩んでいても口にはしないところ。とわともろはにも言われなかった?」
    「……あいつらはは逆になんでも口にしすぎなんだ」
     とわなんてせつなの夢を取り戻す、だなんて初対面の相手にも平然と言ってしまうほど。こんな戦乱の世で行き抜けるほどの危機感など持ち合わせていないあのお人好しの姉は父親がしでかしたことなど完全に忘れてしまったのか今頃は殺生丸と話し込んでいる頃だろう。
     そんな姉が羨ましくもあり──どこか、もどかしい。
    「でも、せつなはとわのこと大好き。違う?」
    「…………家族、だから」
    「うん」
     よかった、とりんはせつなの黒髪から手を離し、身を乗り出して暗い顔をしている娘の眼前に飛び出した。
    「わっ」
     そして争いごとからは縁遠い細腕でりんはせつなを目一杯に抱きしめる。何をどうしてあの戦いに生きる殺生丸という妖怪とどこからどう見てもただのか弱い人間でしかないりんが娘を設けたのかは全く想像もつかないが、少なくとも彼女は殺生丸という妖怪を愛しているし、逆もまた然り。
     そのことだけは短いやり取りからもせつなには伝わった。
    「せつな?」
    「……私は……」
     娘の不安も理解できる。
     なにせ大切なことほどきちんと言葉にしないのが殺生丸だ。周囲に誤解を招こうとも気にも留めず、いつも足りぬ言葉のせいで周囲を振り回す。そんな殺生丸ではあるが、されど。
     長い長い黒髪のお姫様。だいじなだいじなおひめさま。
     りんがそうであったのと同じように、彼もまたこの己らの血を受け継いだ娘を深く愛していたのは確かだ。
    「あのね、せつな。殺生丸さまは何も言わないけれど……せつなは 大切な子だよ」
     押し黙ってしまった娘に言い聞かせるようにりんは言葉を紡ぐ。
    「……」
    「せつなは殺生丸さまみたいな髪だけど、色はりんそっくり」
    「……うん」
    「とわはきっと、りんと同じだね。櫛で梳くのも大変で……よく殺生丸さまにお願いしては困らせたんだ」
    「とわが言ってた。よく……育ての父が髪を梳かそうとして難儀をしたと」
    「ほんとう? じゃあ、とわもお揃いね」
    「お頭は……とわの髪の毛、殺生丸と同じ色だって言っていた」
    「うん。一目で分かるよ、とわのあの髪色は殺生丸さまと同じ、りんの大好きな色」
    「大好き……」
     せつなの髪は大好きな殺生丸さまと同じ流れる川のように美しく。
     とわの髪は大好きな殺生丸さまと同じ輝く月光のように美しく。
    「そう、大好き。せつなもとわも、大好きな殺生丸さまの元に産まれてきてくれた……大好きな子どもたちだよ」
     りんはただただ次の一歩が踏み出せないままでいる娘の身体を抱きしめてやった。
     もっと父を愛せとは言わない。
     人間であるりんとは違い、半妖である彼女にはこれからも永い永い、それこそ永遠にも近い時間がある。そのいつかでいい、いつか 刹那の刻であろうとも父を愛してさえくれればそれで十分。
     大好きよ、せつな。
     戸惑う娘を腕に抱き、確かめるようにりんはもうひとたびその言葉を呟いた。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429